15話 宴の夜

 この宿屋の一階は酒場であり、宴が開かれていた。


 電気の明かりではない、何ともムードのある火の灯る酒場には、少女達の声とムラマサの「ヌハハハハ!」が木霊(こだま)する。


 「で、俺様はそこでこう言ったわけよ!

 おいマンソン!この場は俺に任せて船を障壁の一番薄い所から突入させろ!ってな。

 そしたらマンソンのヤローが汚ねえ男泣きで、お頭ぁ!その傷じゃあ、俺が船を回して来る前に死んじまいますぜ?とか言ってくるわけよ?

 だから俺は言ってやったぜ!バカヤロー!テメーらが俺様の心配なんかするんじゃねぇ!俺様を何だと思ってやがんだ?

 俺様は宇宙最強の男ムラマサ様だぜ?!

テメーらはなーんも悩んだり心配する事ぁねえんだ!

 黙って俺様に付いてくりゃあ良いんだよ!

 これくれぇの小悪党、あっつー間に蜂の巣にして、ロボット兵士もまとめて砂にしてやっから先に船に戻っとけ!ってな?

 そしたらレディが、ムラマサ、私まだまだ撃ち足りないわ(ハート)、とかぬかしやがるから、俺様は、当ったり前だろ!銃身がとろけるくらいに撃ちまくってやるから覚悟しとけよ?!て返してやったぜ。

 そしたら今度はガールのヤツが、じゃあ私はダムダムの135でいくね!とかぬかしやがるから、俺様はテメー調子に乗るんじゃねぇ!そこは277入れとけよって、そん時のノリで冗談言ったら、あのバカ、マジで277ぶち込みやがったから俺の左手がピョーンて飛んでったぜ!いやビューンだったかな?」

 十七歳の少女達はジュース片手に聞き惚れていた。


 離れたテーブルのほんのり酔い色に染まった、赤銅の肌の女盗賊ハミルは

 「なんだいあの男?さっきからたいそうな武勇伝披露しちゃってさ。

 よくあんなに出鱈目なホラ話がポンポンと出てくるもんだよ」


 近くのフェイスシェードをヘルメット内部へ格納したconan Mk-III。

 装甲の手の中のウイスキーらしき物の入ったグラスを見下ろし

 「ホラ話?それは違う。

 今のヤツの話は資料によれば、奴隷商人アグニを私刑にした時のものだろう。

 一つ前の話は同じく奴隷商人のザカートを私刑にした時のものだ。

 被害が調査報告書と合致する」

 実に淡々と述べた。


 女盗賊は唖然とし

「え?アンタあの男の事、全部暗記してんの?

 アンタさ、あの男の追っかけか何かかい? それにしてもスゴいねー」


 「仕事だからな」

 精悍な顔で無感情に言った。



 隣のテーブルの召喚師アイネは宴の開始直後こそ、たらふくご馳走を食べ幸せそうだったが

 「もーう!服を引っ張らないでよー!!伸びちゃうからー!」


 田舎のカバンネでは魔法使いのローブや杖、トンガリ帽子が物珍しいらしく、暇をもて余した子供達の格好の餌食となっていた。



 conan Mk-IIIの向かいの戦士ダイナスが赤い顔で

 「そんなことより、お前達がどうやってあの古代種のリザードマン達を倒したのか話してくれないか?」


 魔法使いシェケムも茜色の前髪を捻りながら

 「そうです!それそれ!ダイナス!私も気になってたんですよ!

 この召喚戦士の皆さん、魔法も使わず、一体どうやってエンシェントリザードマンを倒せたのか是非とも知りたかったのです」


 単眼鏡のリムは、身の毛がよ立つ程美しい剣士をぼうっと眺めていたが、ハッとしてメタリックレッドの勇者へ向き直る。


 女盗賊ハミルは煉瓦の柱の方を向けて

 「ねぇねぇ?!スッゴイいい男のアンタ!

 アンタもそんな隅っこに居ないで、こっち来て来て!」

 赤茶の壁にくっつくようにして、エールをチビチビ飲んでいた美剣士を手まねいた。


 「ん?あぁ俺か」

 鏡二郎が陽炎のようにユラリと立ち上がりconan Mk-IIIの隣に来た。


 女領主は眉を跳ね上げ、忙(せわ)しく前髪を引っ張りながら背筋を伸ばした。


 ハミルはニッコリし

 「しっかしアンタ、見れば見るほどいい男だねー?!」


 鏡二郎は何が?という顔で

 「いいおとこ?」


 シェケムがタメ息

 「美男ということですよ。私もある程度の美男と自負して生きて来ましたが、貴方の前では枯れた花ですね」


 鏡二郎はどうでもよさそうに

 「そうか?お前も充分美男ではないか。

 俺は容姿の美醜に興味はない。

 顔で悪党を斬るのではないからな」


 

 ハミルが己を抱き、身悶えし

 「いいねいいねー!俺は美醜に興味はない……だって?!

 ホントのいい男ってのはこうじゃなきゃね!

 あはははは!!」

 バンバンとうなだれるシェケムの背を叩く。


 戦士のダイナスが大きな顔でうなずき

 「顔で悪党を斬るのではない、か。

 そうだ!聞いた話では、お前は鋼を断ち、エンシェントリザードマンを一刀のもとに斬り伏せたらしいじゃないか。

 だが、見たところ体の厚みは俺の半分以下、体格はどちらかと言えば魔法使いに近いし、その剣もかなりの細身だ。

 それでどうやってあの扉を叩いていた奴をを倒した?

 これからの参考にしたい、出来るだけ詳しく話してくれ。

 それと、差し支えなければ、その剣を見せてもらえないか?

 俺は戦士だ、純粋に剣というものに興味がある」

 黄色い剣ダコの出来た、節くれ立った掌を差し出した。


 鏡二郎は脇に立て掛けた妖刀銀狐をチラリと見て

 「すまん。差し支えがある」



 老僧侶エルダーが木製ジョッキを下ろして「これダイナス。お前も立派な戦士、剣は戦士の魂というのを知らん訳ではなかろう。

 あまり無理な頼みをするもんじゃないぞい」


 ダイナスは大きくうなずき、気まずそうに、差し出した戦士の手を後ろ頭にやり

 「そうだな。すまん、俺が悪かった。

 確かに、俺も酒の席で気軽に聖剣ジャハールを触らせてくれと言われたら考える」


 鏡二郎は太刀の柄を撫で

 「いや、こいつには尋常でない癖があってな。

 俺も言葉が足りなかった。悪く思わないでくれ」



 ハミルがここで手を叩き

 「はいはい陰気なムードはそこまでそこまでー!

 そーだ!ダイナス!アレやりなよ!腕デュエル!」


 ダイナスは

 「そうだな。コナンとやら、腕を出せ!」

 右の剛腕を出し、conan Mk-IIIの赤い装甲の手へ手招き。


 conan Mk-IIIはグラスを下ろし

 「何だ?力比べか?」

 何とはなしに意図を察した。


 どうやら腕デュエルとは腕相撲のようだ。


 ダイナス莞爾(かんじ)と笑い

 「ははは!ただの遊びだ。

 お前は凄まじく強いらしいが、単純な腕力だけならどうかな?

 俺もちょっとは名の知れた戦士、ひとつ勇者様のお力拝見といきたいのだが?」


 シェケムがそれなりに美しい顔を上げ   「じゃ、じゃあ私はダイナスに金貨一枚!」


 ハミルは満足そうに微笑み

 「じゃあアタシは赤の勇者に金貨一枚!」


 エルダーは若者達を眺めて

 「これこれ、今宵は勇者の疲れを癒す為の席じゃろが、おかしな事を始めるもんじゃない」



 conan Mk-IIIは無表情で

 「俺は構わんが、お前が怪我をするかも知れんぞ?

 お前は戦士だろ?その腕は大事な商売道具ではないのか?」


 ダイナスはバスケットボールみたいな肩を回しながら

 「へえ。言ってくれるじゃないか。

 俺はこの腕デュエルでまだ負けたことはないんだぜ?」


 ハミルが

 「そーそー!ま、もし折れたり痛めたとしてもウチには治療屋さんがいるから大、丈、夫!」

 老僧侶のツルツル頭を指差した。


 エルダーはコン!とジョッキを鳴らし

 「これこれ!尊い神聖魔法は座興の尻拭いに使うものじゃないぞい!

 ま、そうは言っても勇者の強さを我々が把握しておくのは、それはそれで、魔王と相対する身のワシらからすれば大切な事かも知れんのう。

 ワシはダイナスに一枚」


 ダイナスは老僧侶の手のひら返しに吹き出し

 「と、いうことだ勇者殿」


 conan Mk-IIIは険しい顔で

 「よかろう。シルバーウロボロスMk-IIIが鍛えた、宇宙最強の剛力を味わえ」


 意外と嫌いじゃなかった。

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