4話 乙女キラー
リムは、目も眩むようなピンクの閃光に圧倒されていた。
光源である床の紋様から顔を伏せ、閃光が収まるのをひたすら待った。
光は徐々に弱まり、代わりに客間にはピンクの雪の様なものが漂う。
それは部屋の中を円を描くように舞い、紋様に吸い込まれ、融けていった。
客間は召喚魔法を発動する前の、元の明るさに戻った。
何もなかった紋様の上に、三人立っている。
赤いスポーツカーの様な光沢のスーツアーマーの巨人。
二丁拳銃、黒革のロングコートとハットの銀髪の美男。
うつむいているため、長いざんばら髪で顔が陰った、着流しの二本差しの男。
リムの目は、未だ眩(くら)んでいたが、何とか人影があるのを認めた。
「ゆ、勇者、様?」
待望久しい勇者一行の到着である、期待に胸がときめいてゆく。
杖を掲げ、通せんぼのように短い手を広げた正式召喚師アイネは、その姿勢で30センチほど宙に浮いていた。
が、ほどなく、ゆっくりと音もなく地上に降り立った。
「ほふぅ……。」
一息、声を洩らすと、糸の切れた操り人形のように床に崩れる。
カルマが駆け寄り、その小さな体を抱き起こす。
「召喚師様!大丈夫ですか?」
アイネの顔をうかがう。
「エヘヘ……どう?スンゴイの来たー?
……サービスでお話も出来るよーにしといたよー。
ふにゃあ……。」
美少女は微笑んだが、疲労の影が濃い。
「何だ?!何が起きた?」
conan Mk-IIIが、眼前にかざした深紅のスーツアーマーの手を下ろし、客間を見回す。
「何だここは?おいキモロボ!テメェ何しやがった?!
コリャあれだな?転送だな?!
俺様を転送して、どうしようってんだ?!」
ムラマサは黒革のハットを押さえながら、銀狼を巨人に突き付ける。
conan Mk-III「知らん。俺は何もしていない。」
ムラマサ「何だとー?じゃこりゃどーいうことだ?!つか、ここどこだよ?!」
?
そこで二人は、隣で歯軋り、痙攣している美剣士に気付いた。
ムラマサは反射的に、左手の銀狼を鏡二郎にポイントし
「何だ、このハンサムヤローは?!
ん?
ヌハハハハ!!コイツ完璧キマッてんじゃねーか!」
腹を抱えて爆笑した。
そのムラマサの声に呼応するように、鏡二郎の白眼の上から、黒目がゆっくりと降りてきた。
「うぅ……うむむむ。」
掌で目を押さえ、一息を吐くと
「こ、ここは?俺は確か、四条で……。」
辺りを見回すと、リムと目が合う。
「キャアッ!!」
女領主は後ろに倒れた。
「お嬢様!!」
カルマが間に合え、と飛び付く。
ゴン!「わおっ!」
カルマに手放されたアイネが、床に後頭部を強(したた)かにぶつけた。
召喚された三人がリムの方を向く。
ムラマサ「何だ?あの女。いきなしぶっ倒れやがったぞ?
しかし、ここは一体どこなんだ?
えらく金の掛かってそうな部屋だな。」
銀狼の先で黒革のハットを押し上げ、洋間の造りを観察する。
conan Mk-IIIも赤いメタリックヘルメットを捻り
「分からん。転送機はないようだが……。
この床のパターンが関係あるのかも知れん。
解析して、みるか。」
しゃがんで、床に深紅の手甲をかざすと、甲のパーツの隙間が青く輝き出した。
鏡二郎は華奢な顎に手をやり、そのconan Mk-IIIを見る
「てんそう?お前達の服装、南蛮人か?
お前、大きいな。
しかし、見れば見るほど面妖な鎧だな。
漆か……いや。」
カルマがリムを抱き起こしながら
「は、初めまして。私カルマ、と申します。こちらは領主のリムです。
逼迫(ひっぱく)した訳あって、皆様をお呼びしました。
皆様を勇者様と見込んで、先ずはお話を聞いて頂きたいのです。」
ムラマサは長大な銀のオートマチックガンを下ろし
「ゆーしゃ?何だそれ?
おい、コナン。
これ以上どこだー?なんだー?をやってみても始まんねーよ。
とりあえず殺り合うのは後だ。話、聞いてみよーぜ?」
conan Mk-IIIは床から手を戻し、ヘルメットの、こめかみ辺りの複数のキーを打つ。
幾つか、キーの入力パターンを試して
「ウム、解析不明、か。
このポイントの座標も分からんし、基地とも通信不能。
ただ転送されただけならば、こんなことはあり得ない……謎だ。
よかろう、この狭い部屋では民間人を傷付けるかも知れんしな。」
音もなく立ち上がる。
鏡二郎は美しい目を細め、落ち着いた口調で
「お前達、この状況でよく落ち着いていられるな……。」
ムラマサは片眉を上げ
「は?別に落ち着いちゃいねーよ。
たださ、ムダに騒いでも仕方ねぇだろ?っつーこと。」
鏡二郎は
「なるほど。」うなずいた。
その時、館が揺れた。
地震ではない、何かが外から激しくぶつかっている感じだ。
ムラマサが、ドアに寄る
「なんだ?!カチこまれてんのか?」
そこにしゃがんでいた若いメイドは、ムラマサと目が合う。
「リ、リザードマンです!!ここを襲撃しに来たんです!」
conan Mk-III「リザードマンとは何だ?」
メイドは要領よく話そうと、二秒ほど考え
「えーと、ま、魔王軍の兵士で、巨大なトカゲの様な男です。
傍若無人で、街を略奪し、人を喰らいます。」
鏡二郎「なんと?!人を喰うのか?!」
メイドは「はい。」
と言いたかったが、真正面から鏡二郎を見てしまい
「キャア!!」後ろに倒れた。
ムラマサが黒革のハットを押さえ
「おい。何で俺様のときは、ソレやんねーんだよ?」
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