2話 相容れない者達
シルバーチップ団の騒ぐ大食堂、その扉1枚を隔てた外は、大きな十字路になっていた。
そこに高周波ブレード、電磁ライフルで武装したヘルメットが20名、油断なく大食堂へ迫っていた。
兵士等のヘルメット、スーツアーマー、メタルブーツ、手甲、その総てが清潔感のある青一色で統一されている。
その装いと銃の持ち方から、この空母の粗暴な住人でないことは明白だ。
間違いなく訓練された兵士である。
巨大な大食堂の扉前には、兵士等のリーダー格らしき男がそびえ立っていた。
明らかに、二メートル越えの筋肉の化け物だ。
この男こそ、超銀河団司法連盟
「ギャラクシークリスト」の産み出した
奇跡のバイオニックコマンドー、
「conan Mk-III」
(コナン マークスリー)である。
後ろの兵士等とは異なり、今作戦のリーダーらしく、唯ひとり真紅のスーツアーマーを着ていた。
この男の体には、超古代人のオーバーテクノロジーである、シルバーウロボロスMk-IIIという、特殊な細胞が移植されている。
ウロボロス細胞の特徴として、まず挙げられるのは、その適合者の少なさと、その超代謝性能である。
超希少な、移植成功者の体内では常時、破壊と修復が高速で繰り返され、何もしていなくとも筋繊維は休むことなく、継続的にその密度を向上させる。
また、外部からの瞬間の被ダメージによる破壊が身体の90%以下であり、かつウロボロス細胞の核が破壊されていなければ、脳、角膜も含め、全細胞が自動で修復される。
更に、現行ナンバーのシルバーウロボロスMk-IIIからは、瞬時に被ダメージの種類、エネルギー値を分析、計算し、組織を再生する際に、再び同じダメージでは破壊されないよう、改構築をする機能が向上した。
つまり、損傷が大きければ大きいほど、敵が強力であればあるほど、その分だけ強くなれるという仕組みだ。
簡単に言えば、conan Mk-IIIは基本的に不死身であり。
いかなる敵であろうとも、闘い続ければ必ず勝つ、ということである。
ちなみに一作目と二作目は、ウロボロス核を損傷し、破壊と再生のバランスを崩し、共にブラックホールと化した。
これらがかの有名な、ギャラクシークリスト科学庁の二大悪夢。
「悪魔のドーナッツ」そして「悪魔のナマコ」事件である。
さて、正しく生物兵器の完成形であるconan Mk-IIIは、その手を大食堂の扉にかざした。
即座にヘルメット内の補強頭脳が電子ロックを分析、解析、そして解除した。
この空母への侵入も含め、conan Mk-IIIの優秀さに、後ろの兵士等は舌を巻いた。
「さ、流石は宇宙最強の生ける兵器。
今回は楽な任務になりそうですね。」
「あぁ、良かったよ。俺、この任務が終わったら結婚するんだ。」
「ちょっ!不吉なこと言わないで下さいよ!!」
「どーいう意味だ?」
「意味は分かりませんけど、何か古代人のギャグらしいですよ?」
conan Mk-IIIは太い人差し指を立て、作戦実行中に、ヘルメットの無線で私語をする二人を喚起する。
無言でうなずき反省する連盟兵士達。
その赤い装甲の人差し指が、中指と合わさり、大食堂へ向いた。
突入の合図だ。
音もなく電子ドアーが開く。
赤い生物兵器は「?」
ロックは解除したが、開けた覚えはないのだ。
強烈なビートの音楽が外へ溢(あふ)れ出る。
青い兵士等は目を剥いた。
中で騒いでいるはずの100人のシルバーチップの団員が、各々のハンドガン、ライフルの銃口をこちらに向け、そこに勢揃いしていたからだ。
100人の奥でムラマサが手を上げた
「よーコナン!いや、コナンマークツーか?」
conan Mk-IIIは無表情で
「スリーだ。」
ムラマサ「あん?おいマンソン、俺が倒したの一匹だよな?」
傍(かたわ)らの傷面が敵から目を離さず
「いえ、二匹です。
二匹目の時は、お頭、酔ってましたから。」
こっちの口調には余裕がなく、額に汗を噴いていた。
ムラマサ「あ、そーなんだ?!んじゃあアレ、夢じゃなかったのかー!
そっかそっかー!流石は俺様!やるねー!
正に宇宙、最、強!ヌハハハハ!!」
マンソンの肩に肘をつき、仰け反る。
conan Mk-IIIは、ゴーグルの下で目を光らせ
「フン、宇宙最強か……。ただの犯罪者が面白い事を言う。
残念だが、宇宙最強はお前じゃない。
本物の宇宙最強は、お前の目の前、シルバーウロボロスMk-III搭載の、conanシリーズ現行ナンバーの、この俺だ。」
親指で自らを指す。
ムラマサは鼻にシワを寄せ
「あっそ。しっかし、お前らもしつこいよなー?
俺様、一応、義賊だぜ?
バラしたのは死刑確定、懲役なら合計して、まず千年超えは間違いなしの、大悪党ばかりだ!
しかもそん中でも、17歳の若い女も奴隷にして売り買いするような、どーしよーもねぇ屑しかやってねぇ!
前から言おう言おうと思ってたんだがよー、どっちかっつーと、正義を愛する俺様ってさー、割りとお前らの味方に近いんじゃねーの?」
conan Mk-IIIは鼻を鳴らし
「黙れ司法の敵。俺は熟女派だ。」
ムラマサは腕を組んで
「ヌハハハハハ!なーるほど!コリャ味方は無理だな!
熟、うぇっ!やっぱ、お前とは最悪に趣味が合わねーわ!!
おいマンソン!この新型ロボット、俺がやる前から、もう壊れてるぜ?」
conan Mk-IIIは憮然とし
「女は若さじゃない。それから俺はロボットじゃない。
バイオコマンドーだ。
ムダ話はもういい!速やかに投降しろ。」一歩前にでる。
最強生物兵器、その巨体の放つ圧力の凄まじさよ。
シルバーチップ団員達に戦慄が走る。
正しく、一触即発だ。
ムラマサ「おいお前ら、よせよせ!
ここでドンパチ始めたら、中の17才達に当たるかもしんねーだろ?
あー、分かった分かった!じゃ、こういうのはどうだ?
今日はパーティーやってっからさー。
俺達ぁ天下のシルバーチップ団だ、逃げも隠れも、あぁ、するか……。
ま、とにかくアレだ、殺り合いは、その、また今度っていうことで、な?」
扉近くの部下に、華奢な顎をしゃくる。
conan Mk-IIIは、バン!と、片手で扉の縁を掴み、ガッチリと固定し
「ウム、確かに民間人に被害が及ぶと不味いな、フン!!」
赤い巨人は突然、予備動作もなく、凄まじいスピードとパワーで、万歳するように身体を伸ばした。
万歳だけで、扉と、付近の50名ほどが吹き飛ぶ!
飛んだ者等は、空中でそれぞれ関節をあらぬ方向に曲げていた。
奥の女達が叫ぶ。
「や、やりやがったな?!」
残りの50名ほどは、反射的に発砲!
しかし大口径の物も含め、弾丸は全て真紅のヘルメット、スーツが跳ね返した。
「ぎゃっ!」
「ぐわっ!」
その跳弾で、シルバーチップ団が、また数名倒れた。
女達は大恐慌、絶叫する。
ムラマサは万歳を指差し
「おいおいおい!てめー!連盟の兵士が17歳を脅かしていいのかよ?!」
conan Mk-III「俺は」
ムラマサ「やめろ!そっから先は二度と聞きたくもねぇ!!」
いつ握ったか、長大な銀のオートマチックを二丁、真紅のヘルメットにポイントする。
conan Mk-IIIは、その銃口を睨み
「オーバーテクノロジー三種の神器、無限弾の銀狼か……。
よかろう!撃ってこい!
だが、現行ナンバーは、ウロボロスの核を左目の奥に固定ではないぞ!
核は常に移動している、どこかは俺にも分からん。」
来いとばかりに万歳を止め、赤い装甲の両腕を開く。
ムラマサ「なぁにー?んじゃ、お前の弱点は、お前の中をグリグリ逃げ回ってんか?うへぇ!キモッ!
ハッ!だがな、それならそれで、そいつが逃げ場のねぇほど、お前の全身を穴だらけにしてやりゃいいだけのことだぜ!!」
ロングコートから殺気が噴き出す。
マンソンが慌てて割って入る
「お頭!でも、こいつが暴れたら、女達が……。」
ムラマサ「そっか!くっそー!!このキモロボがー!きったねぇぞ!!」
地団駄し、銀狼を下ろす。
conan Mk-III「何度も言わせるな、ロボットじゃない。バイオコマンドーだ。
フフ……まぁそう言うことだ!大人しくしろ!」
掴みかかるように、両腕を前に構えた。
今が攻め時と、後ろの連盟兵士等も動く「そ、そうだ!大人しくしろ!
今回、お前達が助けたつもりの、そのトシマ星の女達は、並の人より10倍長生きの希少種族だ。
こちらとしても傷付けたくはない!
お前達さえ大人しく拘束されれば、女達は簡単な取り調べだけで、直ぐに解放してやれるだろう。」
ムラマサは、黒革のハットを押さえ、うつむき
「10、倍? 希少種族?」
マンソン「そーそー!お頭!これが面白れーんですよ!
アイツ等、恐ろしく長生きで、年の数え方なんか、10年1刻みらしいですぜ?!
流石は、広ぇえ宇宙だ!色んな女が、イデデデデ!」
マンソンの後頭部を掴むムラマサの瞳には、狂気の炎が燃え盛っていた。
「面白ぇえ?……マンソン……じゃ何か?
俺様は、170歳の超バア様共と、ウッキウキでちちくりあってたってこと、か?」
銀狼をマンソンの後頭部に、グリッと押し付けた。
マンソンは泡を飛ばしながら
「い、いやいやお頭!確かにそうかも知れねーけど、見掛けは完全に、」
バンッ!!
「ぎゃっ!」
マンソンの左耳が消し飛んだ。
連盟兵士「ひ、ひでえ!」「仲間を撃った!」
ムラマサは牙を剥くように
「うるせぇ!こいつは全身サイボーグだから、これくれぇ大したことねぇんだよ!!」
マンソンがうずくまる
「あひぃーー!!お、お頭ぁ……ひ、左は本物ですぜ!!」
ムラマサの怒りは収まらなかった
「うるせー!!これで仲良く、両方付け耳に出来んだろ?!正に、みみ揃えてって言うヤツだ。
アレ、今のちょっと面白くね?
ヌハハハハ!!
て、さーて……お待たせコナンちゃん!!蜂の巣タイムといこうか?!」
幕は、双頭の銀狼の出番のようだ。
conan Mk-III「フム、資料で見たとおり、中々に狂ったヤツだな。
お前、もう女達はどうでも良いのか?」
奥を指差す。
ムラマサ「けっ!170のバア様など、どーでもいー!!
欲しいけりゃくれてやるぜ!!」
女達は目を剥き、すがるような目で連盟の赤き巨人を見る。
conan Mk-IIIは首を横に振り
「熟(う)れ過ぎだ。」
それを聞いた女達は叫び、大食堂の最奥へ殺到する。
その時、連盟兵士の1人が瞬きをし
「あれ?マークスリーのアーマーが、ピンク?」
マンソンがヨロヨロと立ち上がり
「お頭ぁー、痛てぇよー……。
あれ?お頭、酔ってます?顔が……いや、全身……ピ、ピンクですぜ?!!」
ムラマサ、conan Mk-III
「何、だと?」
戦闘態勢のまま、先ずは自分の体、次いでお互いを眺める二人。
「わっホントだ!」×2
直後、二人の身体がピンクに発光!!
「お前!何をした?」×2
またもやハモりながら、二人は激しい輝きに溶けてゆく。
兵士等、シルバーチップ団員等も目を覆い、たじろいだ。
十秒後、ようやく視力の戻ってきたマンソン
「お、お頭?!」
連盟兵士達も、辺りを見回す
「マ、マークスリー?」
「き、消えた?!」
宇宙最強を名乗る二人は仲間を残し、忽然とその姿を消していた。
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