第15話 こちょこちょ


 俺たち第六遠征隊は想定外の外敵エネミーと遭遇した。そいつは大型外敵種グランデエネミーと呼ばれ、アリアと『アントリア』が束になってようやくどうにか出来るか出ないかの強敵だった。

 しかし、思いの外あっけなく倒してしまい当初の目的である食料調達を果たしてしまったために俺たちはコロニーへと帰還した。


「何度も言うけどこれ本当に食べるの?」


 調理場にいた食事係であるミーナにそんな事を言ってみた。


「はい! ご馳走ですね!」


 ミーナは眩しい程の笑顔で言った。


「なんて笑顔だよ……」


 彼女たちの見た目は〈擬人化ライパーソン〉により人間体となっているが、その実中身は依然アリである。彼女たちは人間体になったにも関わらずアリと同じ感覚で過ごしているのだ。それも、本人たちは自身の体が人間体になっていることに違和感を微塵も感じていない。あたかも初めから人間体であったかのようだ。

 〈擬人化ライパーソン〉ついて分かったことがある。

 この特異能力。これに限らず〈時間停止タイムアップ〉や〈物質破壊マテリアルブレイク〉、〈自由飛行エアライド〉は一つの特異能力の派生能力なのではないかということ。

 その大元の特異能力というのが『望んだ能力を取得』出来る能力の可能性がある。

 特異能力の所持数に上限はあるのか、リスクはあるのか、それはまだ分からないが、大元の一つの特異能力があることはほぼ間違い無いだろう。でなければこんなポンポン特異能力が手に入るなんておかしい。

 そして、問題の〈擬人化ライパーソン〉についてだが、これがなんとまあご都合主義な能力だこと。

 人間体になるだけでなく、生活基準も人間をベースとしたものになるようだ。

 トイレがトイレシーツから水洗トイレになっていた時は思わず涙が溢れるほど嬉しかった。その他諸々も全て人間仕様に変わっている。

 そして食事方法。

 アリには体内に素嚢そのうという器官がある。そこにエサを溜め込み、仲間や幼虫に口づけでエサを与えるのだが、困ったことに〈擬人化ライパーソン〉をしてもこの習性は抜けなかった。

 人間体となり、素嚢そのうが無くなったのだが、彼女たちは口にエサを含み、食べやすいよう軽く咀嚼し、結局同じことをするのである。俺が抵抗しても妹たちは「衰弱しては大変です!」とか言って強引に今日まで食事をされて来た。

 いい加減人間の食べ方を強制させようと思っている。

 そして、極め付きは身の清め方である。つまり人間で言うとこのお風呂。

 これが一番マズかった。

 アリはお互いの身体を舐め合うことで身を清める。

 それを人間がやってみろ? アウトオブアウトだ。

 アリスだけは何故か自前のバスタブがあったのだが、中には湯に浸かることを好むアリもいるらしい。

 そもそも〈擬人化ライパーソン〉する以前にバスタブがあること自体が既におかしいのだが、ここが異世界である以上突っ込んでも無駄だ。

 そこで俺はジェンヌに妹たちの部屋にもバスタブを創らせた。当初は反発の声が上がったが湯に浸かるということがどれ程心地良いものかということを知ると、反発の声は自然と無くなっていった。

 今ではみんな、お風呂が大好きである。中には夜に限らず、朝、昼も欠かさず入る子もいるくらいだ。

 ここまでが〈擬人化ライパーソン〉について分かった大まかなことだ。

 そして今、新たな問題が付随した。

 巨大カマキリを喰うと、ミーナは言うのだ。それもこの人間体でだ。


「一応聞くけど、どうやって喰べんのコレ」


 どんな返答でも、俺は絶対に喰わない。

 ミーナはキョトンと首を傾げると、その可愛らしい笑顔で言った。


「そのまま、ですよ!」

「……はぁ!? 生食!? 本当に昆虫生食なの!? せめて火を通すとか……」

「何を驚かれているのですか? 今までもそのままでしたよ?」


 おいおいちょっと待てよ。今までもって事は、俺がアリになってから今までずっと食べてきたあの甘くてドロっとしたやつは生の虫なのか?


「うっぷ……」


 やばい、リバースしそう。

 ミーナはキョトンとした顔で、不思議そうに俺のことを見ている。


「そうか……。調理中に引き止めて悪かったな」

「いえいえ。いつでもお呼び下さっても良いのですよ!」

「え? ああ、うん。ありがとう。調理頑張ってな」

「はい! 頑張ります!」


 ミーナは両腕を前でグッと可愛くポーズをすると、調理場へ戻っていった。


「調理って……ただ巨大カマキリ切断するだけじゃねぇか……」


 込み上げる吐き気をなんとか根気で耐えながら、愛しのカルマがいる自室へと向かった。



 ♦︎ ♦︎ ♦︎



「どうしたの兄さん?」

「もう何度目か分からないカルチャーショックに頭が追いつかないんだ」

「かるちゃーしょっく?」


 カルマの天使のような可愛いお顔を見た瞬間吐き気など吹き飛んだ。

 だが、これから俺がここでやっていけるかどうかという不安だけは拭えなかった。


「いいや、なんでもないよ」


 そう言って、俺はカムイの髪をわしゃわしゃと撫でる。


「もう、兄さん! ……えへへ」


 怒りながらも、満更ではないとこがこれまた可愛い。


「なあカルマ」


 ピタっと撫でるの止め、カルマと向き合う。

 撫でるの止めた時に「あ……」と一瞬残念そうにした可愛いすぎるカルマが今日のハイライト。


「俺のベッドってこんなんだっけ? 不自然なくらいに毛布が盛り上がってるんだが」


 俺が知っている自分のベッドは断じてこんなに盛り上がってなどいない。

 ましてやこんなにも甘ったるい香りはしない。


「そ、そうかな、いつも通りじゃない?」

「カルマ」

「な、何かな、兄さん」


 カルマがバツ悪そうに俺からそっぽを向き、ひゅこーひゅこーと下手くそな口笛を吹き出した。これまた可愛いのだが、


「……いつからだ」

「う、うぅ……兄さんが遠征に行ったときから……」

「はぁ……まったくあいつは」


 俺はこんもり不自然に盛り上がっているベッドの毛布を掴むと、思い切りひっぺ剥がした。

 案の定というかやっぱりというか、そこにはサラサラの透き通るような長い銀髪の美少女がいた。というかアリスだ。それも腹が立つ程にスヤスヤと熟睡してる模様。


「……兄さまぁ……ふふ……うふふ…………」


 呑気に寝言まで言ってやがる。

 俺はスヤスヤと眠るアリスを抱きかかえ、ドアへと向かう。

 

「カルマ、しばらく部屋で良い子にしててくれ。アリスを部屋に連れて行くから」


 アリスを抱えながら、俺はカルマに言った。


「うんわかった! いってらっしゃい!」


 俺はカルマに微笑み、部屋から退出しドアを閉めた。

 そして、アリスを廊下に放り投げた。


「あうっ!!?」


 アリスはお尻から尻餅をつき、これは何事かとキョロキョロと辺りを見渡し困惑の表情を浮かべている。


「目が覚めたみたいだな」

「な、何が起こったんですの!? 敵襲ですの!?」

「ああそうだ。俺とカルマの部屋に侵入者が入ったんだ」

「た、大変ですわ! 一体誰が!」

「お・ま・え・だ・よぉッ!!!」


 俺はアリスの顔を両手で挟み込み、ぐにゅぐにゅとこねくり回した。

 凄いやわっこい。


「な、なに、を、ふぎゅ、すりゅ、ん、で、ちゅ、の!?」

「るっせー! 黙れぇ!」


 そうして俺は、アリスのほっぺを赤くなるまでぐにゅぐにゅとこねくり続けた。

 別に本気で怒っているわけではない。

 ただ鬱憤を晴らしているだけ。

 これからのことについて色々と悩んでいる時に俺のベッドで呑気に寝てやがったアリスに少々イラッとしただけなのだ。

 昆虫生食のこととか文化の違いとかその他もろもろの不満や鬱憤うっぷんをアリスをからかうことで浄化しようと思った訳だ。


「や、みぇて、くだ、さ、い、ましぃ、ふぎゅ」

「まだだ、まだ終わらんぞアリス。こんなものではな!」


 俺はアリスのほっぺから両手を離す。アリスの純白のほっぺが見事に真っ赤に染まっていた。

 痛そうに自身の頬を抑えるアリスだが、そんなアリスに御構い無しにほっぺから離した両手を今度はアリスの脇に差し込んだ。

 アリスの着ている服が白色の薄手のドレスなのだが、薄いが故に防御力は低い。


「ひゃっ! な、何をするんですの!?」

「なーに簡単なことだ。今からこちょこちょをするんだよ」


 途端アリスはプルプルと顔を左右に降って反対の意思を示した。

 お前の意思など関係ない。

 俺の指がいやらしく滑らかなゆっくりとした動きでアリスの脇を踊る。


「だ、だめ、あ、ああっ!」

 

 アリスは身を悶え、口からは甘美な声が漏れる。

 だが俺の手は止まらない。止まることを知らない。


「いいのかアリス。口を抑えなくて。そのままではお前のいやらしい声が妹たちに聴こえてしまうぞ?」


 アリスはハッとした顔になり、慌てて両手で口を抑えた。

 今俺は、部屋を出た廊下でアリスにイタズラをしている訳なんだが、それはつまりいつ誰がここを通ってもおかしくはないということ。


「ふーっ! ふーっ! んんんんんっ!?」


 ゆっくりとした動きで、アリスの脇から徐々に下へ指を滑らした。

 突然の変化に驚き、アリスはさらに身悶えている。

 そこで、コツコツコツと足音が近づいて来た。

 ふむ。いよいよ誰かが来たようだな。

 目に涙を浮かべ、その透き通るような銀髪は乱れ、あられもない姿でひたすら悶えているアリスに俺は言う。


「おっと、誰かが近づいて来てるみたいだな。こんな姿、長女として見られたら嫌だよなぁ? 恥ずかしいよなぁ?」


 と、言いながら俺は手の動きを速めていく。


「ひゃあっ! だ、だめえ! こない、でぇ!!」

「無駄だ、アリス。足音はどんどん近くなってるぞ?」


 ここで俺はラストスパートをかける事にした。

 今ちょうどアリスの横腹辺りを攻めているのだが、その横腹から斜め前に両手を滑らせ、その巨大な双房をもにゅっと一揉みしてから、その双房を撫でくり回した。

 分かってはいたが、凄まじいほどのデカさと弾力だ。


「はぅっ!!! あっ、ああ、だめぇぇぇぇっ!!!!!」


 アリスは両手で口を抑えることすら忘れ、嬌声を上げた。


「どうしたんだい!!」


 現れたのは白髪のサイドテールの少女、ボンネットだった。

 どうやら足音の正体はボンネットだったようだ。まあこれといって誰が来ても問題はないがな。


「よお、ボンネット。元気そうだな」

「カムイ兄さんっ! 今の声ってアリス姉さんの……っ!?」


 ボンネットが俺の真下に視線を送り、驚愕の表情をする。

 それもそうだろう。なにせアリスはビクビクと身体を小刻みに動かし、到底人には見せられない顔を晒して倒れているからだ。


「どうしたボンネット。アリスがどうかしたか?」


 気にも留めないような俺の態度に、ボンネットはわなわなと体を動かす。

 はやり表情があるというのは良いな。今すごくボンネットが怒ってるということが手に取るように分かるもん。


「カムイ兄さん……これは一体どういうことかな……?」


 ボンネットの目からハイライトが消えた。


「どういうことって、そりゃ兄妹の戯れっていうかなんというか。あっ、お前あれだろ、俺が無理やりアリスのことを襲ったとか思ってるんだろう。残念だったな。それは検討違いってもんだぜ。俺とアリスはいたって健全な——」


「……はぁん……ゆるぢて……くださいましぃ……」


 下からアリスが途絶え途絶えな小さな声で呟き、一度ビクンと小さく跳ねると、動かなくなった。


「戯れを……だな……」

「……カムイ兄さん……覚悟はいいかい?」

「覚悟? それはお前を抱きしめる覚悟か? そんなもん覚悟が無くたっていつでも」

「〈力増算フォースライズ〉、〈速増算ファストライズ〉」


 シュイーンと二つ効果音が鳴る。ボンネットが特異能力を発動したようだ。

 目のハイライトは依然落ちたまま、ボンネットはゆっくりと口角をあげる。


「ちょ、落ち着けって。争いは何も産まないぞ? 考え直せって」

「…………」


 返答せず。ボンネットはゆらりゆらりとこちらに近づいてくる。俺は思わず後ずさった。

 正直なところ、ボンネットの攻撃は俺にとっては大したことはない。特異能力とは関係なく俺の身体は異様に頑丈だからだ。

 ただ、すっごいびっくりする。ねこだましみたいな感覚で身体的によりも精神的にくるのだ。

 今俺にできることは……あれしかないか。


「あっ! 俺重要な用事を思い出した! 悪いなボンネット。ちょっくら行ってくるわ!」


 そう言って俺は踵を返し、序盤からトップスピードで走った。

 面倒ごとは逃げるに限る。

 長いコロニー内の廊下を大分走ったところで、ボンネットが追いかけて来ていないか一度確認した。そこにボンネットの姿はなかった。


「ふぅ……上手く撒いたようだな」

「誰を上手く撒いたんだい?」

「それはもちろんボンネ……ットォォォオ!? おま、いつの間に!?」


 俺の目の前にはボンネットがいた。

 おかしい。何故俺の目の前にボンネットがいる?

 俺が逃げている段階では少なくとも目の前にボンネットはいなかった。目に見えない程の速さでいつのまにか俺を追い抜いていたということか?


「ボクから逃げられると思ってるの? カムイ兄さん……」


 やめて……そのハイライトオフの目で言うの止めて……。


「覚悟は良いかな?」


 ボンネットはにっこりと冷たい笑みを浮かべた。

 それを見た瞬間、俺の体は勢いよく後方へ吹き飛んでいた。

 一瞬だった。予備動作すら見えなかった。

 ドガァァァンッと音を立てて俺は通路側面に衝突した。


「今回はこのくらいにしておくよ。でも……次また姉さんや妹たちに手を出したら……分かるよね?」

「あっ、ああ。分かった分かった」


 分かるつもりはない。

 この程度でへこたれる俺ではないぜ。


「じゃあね、ボクは行くよ」


 そう言って、ボンネットは俺に背を向け分岐するトンネルへと向かった。

 完全にボンネットの姿が見えなくなった時、俺は軽くぴょんっと起き上がり、体中に付いた砂埃を払った。


「…………」


 やっぱボンネット怖い!

 可愛い顔してあれだもんな。それに喜ぶ変態紳士共がいるのかもしれないが、実際に対峙してみろ。ただ怖いだけだぜあれは。

 いくら見た目が可愛い美少女と言っても怖いもんは怖いのよ。

 ボンネットが俺を吹っ飛ばしたせいで通路がそこそこ崩れてしまった。通路としての機能はぎりぎり果たせるぐらいの崩れだが、なにせここは地下だ。やはり危ない。あとでメリィにでも頼んで修復してもらおう。

 さて、こうしてボンネットにボコボコにされてしまった訳だが、一先ず部屋へ戻ろう。

 アリスを回収しなきゃいけないしな。

 あれでもこのコロニー内では長女で、次期女王だ。体裁ぐらい保たせてやるのが兄としての務めだろう。

 俺とボンネットがわちゃわちゃとやってる最中に誰かが来たかも知れないが、まあその時はアリスの運が悪かったということで。


「てかカルマに会いたい」


 愛しき我が弟に会うため、俺は走って来た道を逆に進む。

 まだコロニー内を完璧に把握しているわけではない。道なりにまっすぐ進んで来たから帰りは迷うことはないだろう。

 

「待つの」


 俺は踵を返し部屋へと行こうとすると、まーたなんか可愛いのが立っていた。

 黒髪のサイドテール。そしてこの幼声。


「なんだクラリネット。お兄ちゃんはお部屋に帰りたいんだが」


 ボンネットの双子の妹であるクラリネットだった。ボンネットと瓜二つである。

 仁王立ちで構える彼女に、俺はため息を一つ吐く。


「お前、さてはお得意の特異能力で一部始終を覗いてやがったなこの変態覗き魔め!」

「の、覗き魔じゃないのっ! たまたまっ! たまたま映り込んだだけなのっ!!」


 確かクラリネットは【感知の極み】の派生能力かなんかでこのコロニー内全域をまるで監視カメラのようにることができる。

 プライバシーがなんとかで個人部屋は見ないようにしているらしいが、こいつの性格から考えるとどうにも怪しい。

 クラリネットが俺の前に現れたのは、おそらく感知系の特異能力でアリスとボンネットのやり取りをていたのだろう。そして俺を懲らしめるためにわざわざ来たと。


「へぇ〜。で、これからどうすんの? あの時みたいに力づくで止めんの?」


 初めてクラリネットと対峙した時、こいつは勇敢にも単独で俺を捉えようとした。しかしこいつは力が弱い。あの時の二の舞になるだけだと思うが。


「止めるの! 絶対に屈しないの!」


 クラリネットが決意に満ちた表情を浮かべ……てなどいなかった。

 どこか期待しているようにそわそわと体を揺すり、息が荒い。

 なるほど。やはりこいつはあれか。


「まさかとは思うが……お前……俺にこちょこちょされたいの?」

「っ!?」


 クラリネットの肩がビクッと上がる。

 顔は紅潮し、視線が泳ぎだした。

 なんて分かりやすい子なんだろう。

 くっ殺ドMでなければカルマに次ぐ天使に任命してやっても良いのになぁ。


「て、適当言わないのっ! 別にこちょこちょなんて羨ましくなんかないのっ!」

「羨ましかったのか?」

「あ……ち、違うの! 言葉のあやなの!」


 クラリネットは顔を依然紅潮させたまま、手と足を使いバタバタとなにやら訴えている。


「オーケー分かった。そんなにお兄ちゃんにこちょこちょしてもらいたいなら初めからそう言えばいい。んじゃさっそく」


 俺はクラリネットにゆっくりと近いていく。

 こいつは【感知の極み】という便利な特異能力を持っているが、それ以外はからっきしだ。

 逃げても無駄だと、クラリネットも分かっていることだろう。

 そもそもクラリネットには、〈未来視フューチャーアイ〉がある。

 既に自分がどうなるか分かっている筈だ。

 うーん。実にスケベな奴だ。


「だ、ダメなのっ! 来ちゃダメなの!」


 おずおずとクラリネットは後ずさる。


「どうした、絶対に屈しないのだろう?」

「っは! そ、そうなの! 屈しないの!」


 そうは言いつつも足元は僅かに震えている。

 俺は素早くクラリネットの背後に回った。そしてアリスとはまた違ったその幼き体躯に満遍なく俺の手を滑らせこちょこちょと蹂躙していく。


「あっ! ひゃあっ! あ、が、ああっ!」


 全身をくねらせ身悶えるクラリネットだが、俺が背後から包み込むようにこちょってるため彼女は俺から逃れることはできない。


「たかがこちょこちょだぞ? なんて声出してんだよ」

「出し……てっ! ない、のぉ……!」

「その声のことを言ってんだよぉ!!」


 どれほど時間が経っただろうか。時と我を忘れる程こちょこちょに熱中しすぎたようだ。

 アリスにしたこちょこちょよりもさらに凄いことをしたような気がする。

 ぐったりと俺に項垂れるクラリネットの様子を見れば一目瞭然だろう。


「……お兄様には……勝て……なかったの……はぅ」


 クラリネットは最後にそう言い残し、意識を失った。

 俺はそっとクラリネットを地面に横たわらせる。


「敗北を知りたい」


 俺は空しくそう呟くと、地面に横たわらせたクラリネットをそのまま置き去りにし、自室へと向かった。

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