第18話 本音

 橙色のやわらかな灯りに照らされた薄暗い廊下を俺とアリアが歩く。

 ジェンヌとメリィとは座敷牢のある部屋から出た時に別れた。二人ともそれぞれ私用があるらしい。

 アリアは迷う素ぶりもなく廊下を突き進みボンネットの部屋へと向かうが、一体何故迷わないのか。この迷宮のようなコロニー内の道を全て把握しているのか?

 いくら触覚がありフェロモンを感知し大方の場所を把握できると言っても、この枝分かれした幾多ものトンネルだぞ。それも抜けてもまた枝分かれしたトンネルが現れるというお墨付きだ。

 アリスのようにバカに強いフェロモンならばその匂いだけで道を辿ることはできる。現にあの時俺はアリスのフェロモン、匂いを辿りアリスの部屋へと辿り着いた。

 アリス以外のフェロモンの匂いは然程さほど強くない。ほんのり香る女の子の良い匂いといったところだ。いてフェロモンが強いアリス以外のアリを挙げるとするならば、それはアリアナ女王くらいか。


「そろそろですね」


 アリアはそう言うと、目の前の枝分かれしたトンネルの一番左端のトンネルに歩みを進める。


「久し振りだな、あいつの部屋へ行くのも」


 あたかも以前来たかのように俺は振る舞った。

 アリスには記憶喪失ということで話を通しているが、それ以外には記憶喪失とは言っていない。したがって彼女達は今まで通りのカムイとして俺を見ているのだ。

 今更「俺、お前らの記憶無いんだよね! さっぱりだ!」とか言ったらどうなるか分かったもんじゃない。ルーミアとアリアナ女王辺りがちと怖い。

 カムイに対する厚い信頼がネックとなり、現状維持をせざる終えないといった状況だ。


「ひと月程前にボンネットが風邪をひいた時にお兄様はつきっきりで看病していましたね」

「えっ、あ、あーそういえばそうだったな。全く、世話の焼ける妹だぜ」

「ふふっ、お兄様は本当にお優しいです」


 アリアは微笑を浮かべた。

 看病……だと……?

 ……だが、ここはさすがカムイといったところか。どんなに自分を嫌い、好ましく思わない奴であろうとも付きっ切りで看病してしまうんだよな。さすがはみんなの頼れるお兄様だ。

 いやしかし、アリも風邪ひくんだな。これは意外。


「さぁ、ボンネットとクラリネットの部屋に到着ですよ」

「おう。やっと着いたか」


 ボンネットとクラリネットは相部屋だ。

 俺がカルマと相部屋なのと同じように、妹たちも誰かしらと相部屋なのかもしれない。

 だとしたらアリスはさぞ一人で寂しかったろうに。決して部屋から出ることは許されなかったんだ。来訪はあったかもしれないけど、その時間だって限られている。

 カムイがちょくちょく目を盗んで、とはいえバレバレだったらしいがアリスに会いに行ってたらしい。

 きっと俺も同じことをしたと思う。

 アリアが眼前の扉をノックした。

 すると、中から「誰だい?」とボンネットの声が聞こえた。


「私だ。アリアだ」

「アリア姉さん? どうしたの?」

「話がある。開けてくれ」

「…………」


 少しのがあり、やがてドアがガチャリと開いた。


「アリア姉さんが来るなんてめずら……っ!?」

「よっ。また会ったな」


 ボンネットは俺の顔を見るなり、ドアを閉めようとした。とても驚いた様子だった。

 すかさず俺は足をドアの隙間に挟んだ。俺の身体が無駄に頑丈なおかげで、そこまで痛くはない。


「……何しに来たんだい? ボクは忙しいんだけど」

「まあそう言うなって。ちょっと話すだけだから。なっ?」

「ボンネット。少しだけだ。話だけでも聞け」


 アリアが追い打ちをかけるように言った。

 ボンネットは「うぐぅ……」と悔しそうに顔を歪ませる。

 するとボンネットはゆっくりとドアを開いた。


「……いいよ、入りなよ。誰かさんのせいでクラリネットが寝こんでいるから静かにね」

「おいボンネット!」

「まぁまぁ」


 俺はアリアを手で制す。

 確かにクラリネットを寝込ませた原因は俺にある。さすがに身体中まんべんなくこちょったのは度が過ぎた。素直に反省だ。

 部屋の中へ通されると、実に女の子女の子してる可愛い部屋だった。

 黒のベットに白のベット。羽毛タイプのピンクのカーペット。全身鏡や、部屋のあちこちに点在するぬいぐるみの数々。

 ふと白のベッドに目を向けると、クラリネットがぬいぐるみを抱きながら可愛い寝顔ですやすやと寝ていた。

 だがその手に抱いているぬいぐるみが若干、というか非常に俺にそっくりなのは気のせいだろうか。


「まあ、座りなよ」

「おう」


 俺とアリアはピンクのカーペットに座る。

 アリアと俺はボンネットの正面に座った。


「それで……話しってなんだい?」


 若干イラついた様子のボンネットを見るに、アリアがいるから仕方なしに部屋に通したって感じだな。

 アリアが一緒にいて良かった。


「まあなんだ、そのー……あのだな」

「用がないなら帰ってくれるかい?」


 ボンネットが睨みを利かせ、今にも俺を射殺さんとばかりの視線だ。

 早いとこ話そう。


「あー待て待て。ちゃんと話すから」


 俺は一拍開けてから、


「……悪かったな、クラリネットをからかって」

「……」


 俺は頭を下げた。

 そのため、今ボンネットがどんな表情で俺のことを見ているのかは分からないが、決して良い表情はしていないだろう。


「まさか寝込むほど衰弱するとは思わなかった。そのことに関しては本当に反省してる。でも、分かって欲しいのは俺は決してクラリネットが嫌いだからからかった訳じゃないんだ。大好きで、可愛くて、愛おしいから、からかった。俺はこんな不器用な愛情表現しかできないんだよ」


 頭を下げながら俺は言う。


「お兄様……」


 俺の隣で、アリアが憂さの伴った声で俺の名を言った。

 様々な感情が伴った声にも感じた。


「クラリネットに限った話しじゃない。お前ら可愛い過ぎるからさ、お兄ちゃんとしてそんな可愛い妹を俺は愛でたい。愛でずにはいられないんだ。これからも俺の不器用な愛情表現は続くと思う。でも、どうしてもクラリネットにだけは止めて欲しいとお前が言うのなら、俺は控える」


 ボンネットがクラリネットに固執しているのは誰が見ても明らかだろう。

 二人は双子だ。それもクラリネットは妹で、姉として、その思い入れは相当強固なものに違いない。


「初めからそうしてくれると嬉しいんだけどね……」


 はぁとボンネットはため息を一つ吐いた。


「顔をあげてよ」とボンネットが言ったので、俺は顔をあげた。ボンネットと目と目が合う。


「良いよ。許してあげるよ、カムイ兄さん。だけど……ちゃんと約束を守ってくれる?」

「ああ、勿論だ。さっきは控えると言ったが、なんだったら俺はもう二度とクラリネットにちょっかいも出さなければからかうことも——」

「ちょっと待つのーっ!!!」


 突如横から大きな声が飛んで来た。

 その幼声は言うまでもなく……


「クラリネット! もう体調は大丈夫なのかい?」


 ボンネットがクラリネットの元へと駆け寄る。


「私は大丈夫なの。それよりも、今の話はいったいどうゆうことなのっ!!」

「起きてそうそう声を荒げてどうしたんだクラリネット。お兄ちゃん心配だぞ」

「うるさいのっ!」


 ぷくぅと頬を膨らませ、顔を紅潮させるクラリネット。その澄んだ黒瞳には薄っすらと涙が滲んでいた。


「ど、どうしたんだいクラリネット」


 そんなクラリネットの様子にボンネットも動揺しているようだ。


「どうしたもこうしたもないのっ! 勝ってに私のことを決めないで欲しいのっ!」


 そう言って、クラリネットは俺に妙にそっくりなぬいぐるみをギュっと強く抱きしめた。

 勝ってに私のことを決めないで欲しい……か。それはさっきのクラリネットに二度とちょっかいを出さない、からかわないと、ボンネットに言ったやつのことか?


「……決めないでって……なんのことだい?」

「とぼけないのっ! 私は聞いたのっ!」

「なんだ、起きてたのかお前」

「ちょうどさっき目が覚めたところなのっ!!」

「お、おぅ。分かったから、まずは落ち着こう」


 クラリネットの憤慨は止まらない。

 いやしかし、怒ってる姿がこれまた可愛い。なんかもう全部可愛い。カルマの可愛さに食い込む勢いだぞこれは。


「クラリネット。まずは落ち着け。落ち着いてから、カムイお兄様とボンネットに訳を言うんだ」


 アリアが冷静にクラリネットを諭す。

 クラリネットがアリアの姿をその目に捉えると、ハッとした表情になり、おもむろに、すぅーはぁーすぅーはぁーと深呼吸を繰り返した。

 どうやら、このコロニー内でのアリアの立ち位置は、相当なものらしい。

 何回か深呼吸を繰り返し、ボンネットはだんだんと落ち着きを取り戻した。

 ボンネットはその様子を見て、安堵の表情を浮かべている。


「落ち着いたか?」

「……もう、大丈夫なの。取り乱したの」


 アリアの問いに、クラリネットは自重気味に答えた。

 だが、先程に比べれば遥かに落ち着いているのだが、その目に溜まった涙は依然そのままだった。


「クラリネット。一体どうしたんだい? 何か嫌なことでもあったのかい?」

「…………あったの」


 それを聞いて、ボンネットはクラリネットへ身を乗り出し、目を見開く。


「それは一体なん……」

「もう……カムイお兄様にちょっかい出されたり、からかってもらえなくなっちゃったのっ……っ……」

「「「……へ?」」」


 俺とボンネットとアリアは、同時に気の抜けた声を出してしまった。

 クラリネットの目に留まっていた涙はポロポロとこぼれ落ち、そのクラリネットの黒髪とは対照的な白のベッドに小さな染みが一つ二つと出来ていく。

 嗚咽を漏らしながら俺に似たぬいぐるみを抱きしめているクラリネットの表情は悲壮の限りをつくし、見ていて心苦しいものがあった。


「……」


 ボンネットは唖然とし、ただただ嗚咽を漏らすクラリネットを見つめていた。

 訳が分からない。といった感じだろう。

 俺はカーペットから立ち上がり、クラリネットがいるベッドへ向かった。

 そして、クラリネットの隣に腰を下ろす。

 優しく頭を撫でてやると、途端にクラリネットが俺に抱きついて来た。俺の胸に顔を埋め、嗚咽を漏らしている。俺はクラリネットの背中に手を回し、優しくさすった


「うっぐ……ひっぐ……うぅ……カムイお兄様ぁ……」


 より一層クラリネットの嗚咽が強くなる。

 俺はクラリネットを抱きしめながら、


「クラリネットの髪は……俺と同じ黒色だな。あと瞳の色もだ。お揃いだな」

「ひっく……うっぐ……お、お揃い……?」

「ああ。この黒髪と瞳は、俺とクラリネットとカルマだけだ。血が繋がってて、同じ黒髪と黒い瞳。だから兄妹という関係なら俺とクラリネットは一番密接な関係だ」

「……密接……なの……」


 クラリネットは僅かだがだんだんと落ち着きを取り戻していった。

 俺の胸に埋めた顔を上げ、こちらを向いている。

 その顔は赤く、涙に濡れ、俺は罪の意識にかられた。妹をこんなにも悲しませてしまったと。涙を流させてしまったと。

 すごく……胸が痛い。

 そんなクラリネットを見て俺は思わずその顔を包みこむように抱き寄せた。抱き寄せずにはいられなかった。


「んっ…………カ、カムイお兄様は……私のこと……きらい……なの?」


 俺の胸元から、不安そうな小さく掠れた声でクラリネットが聞いてきた。

 どうやら中途半端なところでこの子は起きてしまったらしい。俺がボンネットに「クラリネットが嫌いだからからかっている訳じゃないんだ」と言った時、クラリネットはまだ寝ていたということか。


「バカか。そんな訳ないだろう? 俺はクラリネットのことが大好きだよ。ずっと守ってやりたいほどにね」


 まるで異性への愛の囁きのように言ってしまったが、これはあくまでも兄としてだ。うん。兄として……だ。


「っ……!! で、でも……もうからかってくれないって……言ったの」

「クラリネットが望むならいつでもからかってやるぞ。何故なら、俺はお前のことが大好きだから」

「——っ!!!」


 若干、俺の胸元が熱くなったような……いや、間違いなくクラリネットの体温が急激に上昇している。


「クラリネット。なんだか熱いぞ?」

「う、うるさいのっ! こっち見ないでなのっ!」


 ギュっと強固に俺にしがみつくクラリネット。

 ふっ。可愛い奴め。

 俺はその頭を優しく撫でる。


「んで、ボンネット。約束内容の変更って可能かな?」

「……」


 そもそも、事の発端はボンネットがクラリネットに対し異常に過保護で、俺がクラリネットと戯れるのを良しとしなかったの原因だ。しかしそれは姉として、クラリネットが大切で、大事だからこそだ。そこは理解してる。

 だがボンネットが肝心なクラリネットの気持ちを推し量らなかった。それが今の状況を作り出したのだ。


「……うん。良いよ。クラリネットがこれでいいって言うなら、ボクはもう何も言わないよ」

「そうか。でも本当に良いのか?」


 あれだけ怒りをあらわにしていたんだ。こんなあっけなく引き退さがるとは思えない。


「いいさ。でも、それでもボクが我慢できなかったら、その時は、兄さんが我慢してね?」


 ニッコリと、とってもキュートな笑顔で言ってのけやがった。


「いや怖ぇーよ! そんな笑顔で言わないで! てか結局ボコるの!?」


 やっぱりこの子、怖い。

 見た目はクラリネットとまんま同じなのに、どうして性格というのはこうも大きく異なるのか。


「アリア、ちょっとハンカチ貸してくんね? クラリネットの顔を拭いてやりたい」

「は、はい……グスン……良いです……よ?」

「なんでお前が泣いてんだよ!!」


 ポロポロと涙を流し、微笑ましくこちらを眺めているアリア。


「すみません……お二人の兄妹愛に……胸を……打たれまして……」


 およよと、アリアはハンカチで涙を拭く。

 早くそのハンカチでクラリネットの顔を拭いてやりたいんですけど。

 いや待てよ。そもそもあのハンカチは一度俺の顔に付いた砂埃やらなんやらを拭いている。そんなハンカチで拭いたら……

 案の定、アリアの頬は、少し汚れた。

 そんなアリアの様子に呆れていると、ボンネットが「カムイ兄さん」と言って、俺に白のハンカチを手渡した。


「これで拭いてあげなよ。クラリネットもきっと喜ぶ」


 その表情は先ほどの緊迫とした、今にも俺を殺してやると言わんばかりの険しい表情ではなく、穏やかな優しい笑みだった。

 うん。すごい可愛い。


「ありがとな、ボンネット」


 俺はボンネットから、その白のハンカチを受けとり、クラリネットの顔を拭こうと俺の胸に抱きついているクラリネットを引き剥がそうとした。

 しかし、


「くそっ……! こいつ、離れねえ!!」


 クラリネットはまるで俺の胸に重力が発生しているかの如く、俺の胸にぴっとりとひっついている。

 その黒髪のサイドテールが、フリフリとまるで犬が尻尾を振っているかのように忙しなく動いていた。


「……えへへ……大好き……なのっ……」


 アリアはふふふと笑い、ボンネットはやれやれと微笑を浮かべた。

 一件落着と言いたいところだが、まだ解決してない問題がある。

 それは、おそらく今日の晩飯にあの巨大カマキリを生食することもそうだが、一先ずそれは置いておく。

 やはり今どうにかしないといけない問題は、ボンネットがシロアリに攻撃を仕掛けた件についてだ。

 以前はシロアリとの仲はそこそこ良好で、友誼ゆうぎを結べていたという話だ。

 ボンネットにはまた日を改めて話をすることになりそうだ。

 本当は今その件について話したかったのだが、そんな雰囲気ではないな。


「おいクラリネット。良い加減拭かせろや」


 コンコン


 俺が懸命にクラリネットをひっぺ剥がしている最中、ドアがノックされた。


「……誰だろう。はいはい、どうぞー」


 ボンネットがドアを開く。そこには俺が先ほど話していた給仕係のミーナがいた。


「ミーナか。もうご飯かい?」

「はい! ジェンヌお姉様が「クソ兄を連れて来い」とおっしゃっていたので、お迎えに上がりました!」


 給仕係のミーナはジェンヌの声マネをして言った。なかなかどうして、ジェンヌの声真似が上手いなこの子。


「なんでジェンヌはわざわざ迎えを寄越したんだ」


 まさか俺が巨大カマキリを生食したくないことを予知して……!?


「はい! なんでも、「クソ兄がうろちょろほっつき歩いてると困る」、とのことでした!」


「ジェンヌは俺に信用ねぇのか! 不良息子じゃあるまいし!」


 クソぉ……なんなんだよぉ……。完全に俺を子ども扱いじゃねぇかよぉ。食糧遠征に行く時もまるで我が子を始めてのおつかいに行かせる様な顔で見て来やがったしよぉ。

 あとなんでミーナこんなに声マネ上手いんだよ! 本人かと思ったわ!


「それでは、食堂へ行きましょう。今日はご馳走ですっ!」

「それは楽しみだね! 何が出るんだい?」

「今朝、第六遠征隊とお兄様とで食糧遠征に行ったのだが、運良く大型外敵種グランデエネミーを仕留めたんだ。私たちの因縁のアイツを、な」


 アリアが誇らしげに言った。


「えっ!? まさかアイツを仕留めたのかい!? ど、どうやって……。ボクの支援なしにあいつには敵わないはずだよ。支援があったって厳しい相手なのに」


 ボンネットはそれは有り得ないとばかりにないないと首を振る。


「ああ、それなら簡単だ。俺が巨大カマキリのうなじまでアリアを持ってって、アリアが鉄拳をかました。ハァーッってな。それだけだ」

「い、意味が分からないよ。運んだ? え?」

「意味が分からない? ならもう一回言うぞ? いや、ちょっと端折はしょるわ。アリアがハァーッってうなじを殴った。ほんとそれだけ。ハァーッて」

「だからっ! もうそれが意味分からないんだよ!」


 なんだよボンネット理解が乏しいな。

 そのまんまの意味だろうが。


「ん? クラリネット?」


 クラリネットが突然俺から離れた。

 あれだけ強くひっついてたってのに、急過ぎて逆にびっくり。


「退避するの」


 そう言って、クラリネットはベッドから降り、部屋の隅へ行く。

 それを見たボンネットも察した様に部屋の隅へ寄った。


「なんだよお前ら姉妹揃って仲良く部屋の隅になんて寄っちゃってよ。なあアリア?」


 アリアへと視線を向けると、何故か右腕を引き俺に左手を向けていた。

 なんか見覚えある。

 凄い衝撃波が伴うパンチをする時の構えだな確か。


 ん?


「お、おいアリア。何をしているんだ? それってあれだろ? ハァーッてするやつだろ? ここに外敵エネミーはいないぜ? ハァーッてしちゃダメだぜ?」


 ——悟った。


「お兄様のバカぁ!!」


 俺の腹部にアリアの鉄拳がめり込み,俺は後方の壁まで吹っ飛んだ。体の内側から全身に衝撃波が広がる。

 今朝よりも威力が上がっているのは気の所為だろうか。


「……クラリネット……テメェ……〈未来視フューチャーアイ〉で未来見やがったなちくしょう……」

「自分の身は自分で守るの!」


 クラリネットは声高らかに言った。実に得意げである。


「お、覚えてろよぉ……その言葉ぁ……」


 消えるように意識が遠のき、視界が暗く——

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る