—噂話—


 ——ここはとある洞穴


「シクルのやつが殺られたらしい」


「あのシクルが!? シクルと言やぁ北アジスト地区で現状一番幅効かせてるやつだぜ? 信じらんねぇ……一体誰が……」


「なんでも、小せえやつらにコテンパに仕留められたって話だぜ」


「小さいやつら? おいおい嘘だろ? シクルがどんだけ強ぇと思ってんだ。あいつを仕留める小せえ虫なんて……ん? ちょっと待てよ」


「どうした」


「聞いたことがあるぞ。小規模だが、超武闘派のアリの組織があるって……」


「あぁ……。俺も聞いたことがある。シクルのやつがやけに楽しげに話していた。だがただのホラ話しじゃなかったのか? あいつとタメはるアリなんて信じられる訳がない」


「シクルが言っていたことは本当だったって訳だな。思えばいつの間にか腹についていた傷。寝返りをうった時に自分の鎌で傷つけたと言ってやがったが……」


「ああ。それはおそらくアリ達の仕業だ」


「やべえな。アリ」


 二匹の虫はホラ穴の中、食後の世間話といったところか。楽しむように会話していた。


「ところでよ、さっきから気になってたんだが、歯に足が挟まってるぞ」


「え、まじ?」


 片方の虫は歯に挟まった足を自身の鋭い手で器用に取り、そして食べた。


「お前は早食いだからいけない。もっと味わって喰べろ」


「食べ方くらい別にいいだろ」


 歯に挟まっていたのは足。虫の足だ。

 捕食された哀れな虫の足。

 この世界において強き者は絶対。

 弱肉強食。弱い者は喰われ、淘汰される。


「それにしても」

「なんだ?」

「会ってみたいな。シクルを殺ったアリに」

「ああ。同感だ。喰いてえ」


 二匹の巨大な体躯の虫はニヤリと笑みを浮かべた。

 強き者は強き者を求め、そして喰いたいと望む。人間の倫理観では後者は決してありえないが、前者は同じ。

 虫の世界というのは人間の社会よりサバイバルで、毎日をどう生き延びるか。そして子孫を残せるか。


『話は聞かせてもらいました』

「「誰だ!」」


 突如雄の声が話しかけてくる。


『全ての強き者の斡旋者、とでも名乗っておきましょうか。そんな強き者のお二人に耳よりな情報があるのですが』

「うるせえ! 姿を見せやがれ!」

『そのアリに会いたくはないですか?」

「っ……!」

『シクルを倒したアリ。アントリアを』


 雄は「ふふふ」と微笑んだ。


「その話、聞かせてくれないか?」


 強き者は強き者を求める。喰べたいと望む。

 情報がガセであったとしても構わない。本当の話なら儲けもの。嘘であったなら情報を提供した者を殺し喰うだけ。たったそれだけのこと。

 これが虫の世界なのだ。


『分かりました。では話しましょう。特殊異能部隊アントリアの居場所を。そしてわたしを楽しませてください』


 雄が声高らかに言った。実に薄気味悪い声である。


「楽しませるとかはどうでもいいけどよ、パチこいてやがったらぶっ殺すからな!」

『はい。煮るなり焼くなるなんなりと』

「けっ」


 雄は「ふふふ」と微笑む。あたかも予想通りに事が進んだと言わんばかりに。

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転生したら最強のアリだった件 五巻マキ @Onia730

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