ラノベを書きたい県知事さまとお目付け役は、世界史のあの人達…?

まだ16歳の、ごく若い王族かつ県知事の名はスレイマン。その監視役として中央から派遣されてきたのはイブラヒムという名の若者。前者は慣れない官僚勤めに奮闘中、後者はエリート街道を歩み出したばかりだ。

 彼らはのちに、オスマン帝国の最盛期を築く壮麗帝スレイマン1世およびその寵愛を受ける大宰相イブラヒム・パシャとして、ヨーロッパにまでその名をとどろかすことになる。

県知事さまがイブラヒムに一通の手紙を渡し、「検閲してほしい」と頼むところから物語は始まる。緑の瞳を輝かせて、ふわふわと話をあちこちに雲のように飛ばしつつ、自分の夢や希望を語る県知事さま。経験し得なかった「学校」を舞台として物語を書きたい、ゆえにそなたの体験を語れ、学校での集団生活の暮らし、恋愛とはどういうものか、自分がなりたいものとは……。
イスラームの神や法を巡る対話を通じ、イブラヒムはスレイマンの素直さに戸惑いながらも理解しようとつとめ、やがてこの美しくも聡明で、少々天然な王子に惹かれていく。そして……。

オスマン帝国史を紐解いた御仁ならばご存じの通り、この2人は史実では最終的に苦く哀しい結末を迎えることになる。
だが、本作にはそのような影など感じさせない2人の持つ明るさ、初々しさ、素直さ、そして真摯さが満ち、まさに青春ものといったきらきらした趣き、彼らが過ごす幸福な時間が、一日でも長く続くように願わずにはいられない。

ちなみに、本作いちの名場面は「ばりっ」ですね。異論は認める。

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