県知事様はライトノベルが書きたい
崩紫サロメ
第1話 妹への手紙は検閲される
「検閲、お前の仕事だろう?」
そう言って
「知らないところで見られて、あれこれ思われるのは嫌だ。かと言って目の前で見られるのも嫌だが……だが、いつまでも返事をしなければ、向こうも心配する。だから」
そう言いながら県知事は顔を真っ赤にして目をそらした。
「さっさと確認して、送ってくれ」
イブラヒムは渡された手紙―というには分厚い束に驚きながらふと考えた。
上官であるカッファ県知事スレイマン王子は自分より一つ下の十六歳の少年。
この初々しい反応からするとこの手紙は。
「……恋人宛てですか?」
「いや……妹だ……」
ならばなぜそこまで赤くなるのか。
イブラヒムの視線にスレイマンはいたたまれなくなったのか、机に顔を伏せてしまった。
イブラヒムは苦笑してその封筒に目をやった。
手紙というにはかなりの量がある。
数十枚にもなるだろうか。
一体何が……。いや、それを確認するのが自分の仕事だ。
イブラヒムはおもむろに封から中身を取り出した。
その筆跡はいつも見慣れた端正なものであったが、公文書とは違う柔らかさがあった。
*
親愛なるハディージェ
半年以上返事をせず、すまなかった。変わりはないか?こちらは少し変わりがあったのでそのことから報告する。
私のところにもついに、イスタンブルからの監視官が来た。書記という名目で来ている一つ年上の
実際、書記として有能な働きをしてくれてはいるのだが、有能な分、私の行動はすべて監視されていて、大宰相様に報告されているようだ。
もちろん、お前からの手紙も検閲の対象だ。
それは私たちが王族である以上仕方がないことだろう。
今まで返事をしなかったのはそのためだ。
いや、そのように書くと私が告発されなければならないようなことを普段からお前に書き送っているようだな。
当然のことながら、お前もそうであるように私も、皇帝陛下と大宰相閣下に対して後ろめたいことなどなく、ただ肉親の情から筆を取っているだけだ。
これほどまで長く返信を躊躇ったのは、唯々、お前への手紙をその者に読まれることが気恥ずかしくてたまらなかったからだ。
……察してくれるな?
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