第2話 ただし主人公が気に入らない

 さて、本題に入ろう。


 お前が貸してくれた『葡萄園』についてだ。私もお前とかなり近い感想を抱いた。

 世界観や構成は面白い。ササン朝ペルシア風の架空世界だろうか。

 結局、私が違和感を覚えたのは、お前と同様に女主人公の心理だ。

 彼女が恋するバハラームという男、初登場の場面から自己中心的でいい印象を持てなかった。


 話が進むにつれてバハラームの宿敵であるバラーシュの潔さが際立つようになり、ますますバハラームがどうでもよくなってきた。

 葡萄園で二人が再会するところ、本来なら感動すべきなのだろうが、彼女と離れている間にバハラームが他の女に想いを寄せられてそれなりに気のあるようなそぶりを見せていただろう。あのせいでますます好感が持てなくなった。


 この作者のファールシーという者は、お前は女性だと思うと言っていたが、本当にそうか?

 女はこういう男に惹かれるものなのか?英雄色を好む?

 私は色好みな英雄よりも誠実な一般人の方がいい。

 とにかく、私なら絶対バラーシュだな。


 結局のところ、私はこの話に大いに不満を抱きながらも、何度も読み直してしまった。

 それはやはり壮大さと繊細さを兼ね備えた描写と、繰り返すがバラーシュの人間性に惹かれるからだ。結局、気に入らないのは主人公のバハラームだけだ。


 昔のように一緒に住んでいたら「もし私が女主人公なら~」などと語り合っただろうが、それができないことを残念に思う。

 きまぐれに、私の夢想を文章にしてみた。

 132頁から分岐する形で、女主人公がバラーシュと結ばれる話になっている。

 駄文で恥ずかしい限りだが、書き終えて少し溜飲が下がった。

 同じくバラーシュ派のお前としては、こういう展開をどう思う?

 感想を聞かせて欲しい、というよりお前も何か書いてくれ。


 それから、一応私を監視している男について書いておこう。

 イブラヒムという17歳のギリシア人で、分かりやすく言うとだな、一見『暁の光』のフサインのように見えるのだが、話をしてみると『沈黙の城』のホスローのような面もあり、時々『百合の咲く頃』のボーラーンを男にしたような感じもする。大宰相府からの監視ということで不安に思うかもしれないが、私を陥れるような卑劣な男ではないと信じている。だからこれからも、手紙のやり取りを続けたい。


 返事を待つ。


 スレイマン


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