好きという気持ちは、ただ一方向に進んでいく感情ではない。
対岸に渡る時、遠回りして橋を渡っていってもいいし、最短ルートで川の中を進んでいってもいい。しかし、どちらにしても確実に対岸に到着するとは限らない。
橋は通行止めになっているかもしれない。川の流れが早くて流れされてしまうかもしれない。
安全性も確実性も、好きという気持ちの先には存在しない。
この話には好きという感情に振り回される男が二人、滑稽に見えるが、その実世界の変革よりも強い力で好きを伝える。
二人はやり遂げる。
それで何が起こるのか?
結局たいした事は、何も起こらない。それが生きるという事なのかもしれない。
しかし、確かに二人はやり遂げたのだ。
それだけは、正しい。
この作品は、自意識と性と生の感覚が不安定だった思春期のあの頃を、非常にリアルな質感を持って想起させる2章立ての物語です。
表題でもある『空気の中に変なものを』は、思春期時代の瑕疵を背負ったまま大人になった主人公が、かつて救えなかった初恋の人を助けようとするお話。
ここでは「かつての初恋の人を助ける」という『目的』が強く描かれており、過去や現実のあるべき姿が奇妙にねじれていく感覚が大変に印象的でした。
一方の『花火は何故打ち上がったか』は、思春期真っ只中の少年が、初恋の人との約束を果たすために、周囲を巻き込んで花火を打ち上げようとするお話。
こちらは1章とは対照的に、目的に向かっていく『過程』が丁寧に描かれており、まさに花火のような刹那的なきらめきに胸を打たれる思いがしました。
2章の爽やかな読後感も素晴らしいのですが、1章の不条理な「ねじれ感」こそが、この作品独特の世界観を形作るものだと思います。
この文章でなければ表現できない空気感が、絶妙に心地悪くて心地いい。
多くの人が「マシンガンを持ったテロリストが教室に侵入してきた」みたいなことを経験しないまま大人になっちゃったと思いますが。
スーパーヒーローになれなかった僕たち私たちが、あの頃思い描いたようなIFを濃密に追体験できる作品でした。
うまくまとまらない感想になってしまいましたが、ものすごく面白かったです!
恋は、遠い日の花火ではない――言わずと知れたサントリー・オールドの名コピーである。昔、これに憧れ、いつか情熱大陸に出るんだと豪語していた広告屋の同僚がいた。尻で踏むハヅキルーペのCMが成功(?)を納める今、なまぬるい感慨を抱かずにはいられない。
さて、本作。二部構成になっており、一部は消えた初恋の少女を追い求める復讐劇であり、二部は対照的にひと夏の青春劇となっている。が、〝花火〟を軸に回すと模様が浮かび上がる独楽のような、たくらみが仕掛けてある。
正直なところ感想は難しい(実際、初読の時は逃げた)。恋はやっぱり遠い日の花火で、上から下か見るかで色も形も美しさも違う。多分。心持ちにより変わってしまうのだ。平成の終わりを宣告され、否応なく昭和の終わりを知っている世代が当時を想うのと同じく。けれど振り返らずにはいられない、読み進まざるをえない、そして今もってなおくすぶる。そんな、時代を読まされた物語でした。
銃声、空気の中に変なものを垂れ流している煙突。
あのとき何もできなかったぼくは、タカハシを救いに行くと決めた。
けっこう過激な暴力描写や性描写があるので18歳未満は読んだらダメ。
27歳オーバーのみなさんに勧めたい小説です。
生まれた年代の違うふたりの少年が結果的にタカハシさんを救うことになるんですが、それ以前にこの物語構成センスよ。
昭和の怖いかみなりおやじ。銃を隠し持っているという噂のおじさん。
焼却炉の二匹のペンギン。ぺんぎん可愛いよね。
狂ったビートの青春小説です。あんまり誰も救われなかった気もする。唯一担任ちゃんだけではないでしょうか? なんらかの救いを得ることができたのは。でもそれが平成の終わりを象徴している気もして、何とも言えない読後感を醸し出しています。
私は割と能天気人間なので、あの焼却炉を破壊して平成が終わるといいな。とか思ってしまう。今も誰かが空気の中に変なものを燃やして混ぜているんでしょうか?それとも命知らずの誰かがあの場所に向かっていくんでしょうか。
この物語の舞台となっているのは、たぶん千葉県の常磐線沿線の地域でしょうか。
そして、物語の舞台設定となっている時代は80年代から90年代にかけての10年間だとされていますが、小説の中に描写されいる頭のおかしいオヤジみたいな人は、今でも時どき噂話で耳にしますし、私が幼少だった頃(90年代末期)は実際、そんな良からぬ噂のある人が近所にいた事も思い出しました。
これは私の勝手な思い込みですが、この話から漂う怖さと、物語の舞台となっている土地の得体の知れない不気味さ(自分も住んでいた時期があるのでよく分かる)や、昭和の頃で時間が止まってしまったかのような雰囲気も相まって、この場所を舞台とした事が、恐怖感を感じさせ、この作品をより魅力あるものにしたのだと思います。