あとがき
『縄と鎖』、お読み頂きありがとうございました。
これは、『猫と預言者』に続き、「イブラヒム、あんたスレイマン様のことどう思ってるのよ?」というのを自分なりに整理するために書いた短編です。
スレイマンとイブラヒムについては『猫と預言者』のあとがきで語っているので、合わせてお読み頂けたら、と思います。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884977104/episodes/1177354054884981097
さてここでちょっと「デウシルメ」について説明しておきます。
これは、オスマン帝国における官吏登用制度、とも言えますし、奴隷制度とも言えるものです。
つまり、異教徒の少年を強制的に「
それは本人や家族にとって、喜ばしいことなのか、悲しいことなのか?
このことについては、一概には言えません。
息子を強制的に奪われる母親の悲しみを伝える物語は多くあります。
一方で、キリスト教徒の地方領主などが、徴用官に賄賂を渡して自分の次男や三男を「奴隷」として徴用させるという話もあります。
それだけ、デウシルメ制によって徴用された「奴隷」という地位には魅力もあるのです。
実際、イブラヒムを始め、オスマン帝国大宰相の多くがデウシルメ出身の「奴隷」です。
大宰相というのは、実質、国の頂点ですから、絶大な権力を持っています。
しかしその栄華は短く、多くは権力闘争の末、数年で処刑されたり暗殺されたりすることも多いのです。
(皇帝自体の地位も危うく、廃位されたり、「強制的に病死」させられたりも多いのですが)
イブラヒムの少年時代は、大宰相の回転が早かった時期です。
特定の大宰相のことを書こうかと思ったのですが、焦点は「イブラヒム、あんたスレイマン様のこと(以下略)」なので、敢えて誰とは言わず、処刑された大宰相という設定にしました。
イブラヒムはオスマン帝国でも二番目に長い、十三年という期間、大宰相を務めます。
その薄氷を踏むような高位にあったが故に、スレイマンとの関係が拗れた…わけではなく、割と最初から屈折してた、というのが一応の結論で、デウシルメという制度の裏と表を自分なりに描いてみたいと思ったのです。
スレイマンとイブラヒムの出会いについては、スレイマンが「皇帝の孫」としてカッファ県知事であった頃、という説と、「皇帝の息子」としてマニサ州知事であった頃、という説がありますが、前者としておきました。
メフメト2世の頃から、兄弟が争うことにより国が混乱に陥ることを防ぐため、皇帝になれなかった兄弟を処刑する「兄弟殺しの掟」というものが慣習法となりました。だから、「皇帝の息子」は皇帝になるか、処刑されるかしかありません。しかし、「皇帝の孫」の場合、冴えない地方官として生き延びる可能性もあります(殺される場合もあります)。
で、イブラヒムが「私は
一時期は大河っぽくこの二人の話を書いてみたいと思っていたのですが、既にトルコの大河ドラマMuhteşem Yüzyılも世界的にヒットし、日本語版も始まりましたし、篠原千絵さんの『夢の雫、金の鳥籠』など、大河っぽいのはできてる時代ですので(中編では塩野七生さん、夢枕獏さんも)、こういう短編形式でいろんな人や出来事を取り上げていくのもありかな?とか思っています。
Muhteşem Yüzyılのイブラヒムが自称策士感溢れる青臭い感じですごく好きなので(褒めてます!)、そっちの二次創作なんかもやりたいのですが、実は日本語版を見ていないので、いろいろわかってない(笑)
一応下書きができているものとしては、オスマン帝国の近習学校における男色考察が勢い余って「スレイマン様が学園BL小説を書く話」になってしまったものなどがあるのです。どうしようこれ(笑)
追記:できました。『県知事様はライトノベルが書きたい』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885021688
天然ボケで真面目なスレイマン王子が、神のことやイスラーム法のことを考えながら、お仕事中のイブラヒムを巻き込んで学園ライトノベルに挑戦する、神学系コメディになりました。時系列でいうと、これの少し前になります。
また、おつきあい頂ければ幸いです。
縄と鎖 崩紫サロメ @salomiya
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