あとがき

『猫と預言者』、お読み頂きありがとうございました。


 本作の語り手であるイブラヒム・パシャは、スレイマン1世の一つ年上の臣下であり、歴史の概説書などにも「恋愛関係」にあった、とも記されることのある人物です。イスラームにおいて同性愛は「行為」としては禁忌とされながらも、その精神性については高尚なものとして語られることがしばしばあります。


 有名なところではサファヴィー朝のアッバース1世と小姓の絵ですが、オスマン帝国においても、皇帝が小姓を寵愛したり、将来のエリートとして育てられる奴隷たち(イブラヒムもそのような者の一人)の間で「恋愛禁止」という規則があったくらいですから、実際、歳の近い少年同士の恋愛なども多くあったのでしょう。


 スレイマンとイブラヒムに関しては、本作でもとりあげたように、同じ宮殿にいながら仕事中に文通をしたり、その他にも二人きりで舟遊びに出たり、キリスト教圏の者が「口にするのも憚られる関係」ではないかと憶測していたりします。


 まあ、多分、そうなんじゃないでしょうか(笑)


 この二人の結末については、有名なんで敢えて伏せずに書いてしまいますと、イブラヒムの処刑という形で終わります。

 その理由や経緯については謎が多く、暗殺という説もあるのですが、いずれにしても、スレイマンはイブラヒムの死に深く関わっていたのは間違いないようで、何十年も経ってから、それを悔やむ手紙を書いていたりもします。


 こんな公式情報があって、創作したくないわけがないじゃないですか(笑)


 というわけで、私はスレイマンとイブラヒムの話をいろいろ書いているのですが、結局イブラヒムの死の真相について固まらず、完成している作品はわずかです。


 で、関係性を確定するために、イブラヒムに「ぶっちゃけスレイマン様についてどう思ってるよ?」って語ってもらおう、と思って書いたのが本作です。


 この関係性の設定にはある程度ベースになるものがありまして、アンドレ・クロー『スレイマン大帝とその時代』などに引用されているイブラヒムの「国のあり方を決めるのは陛下ではなくて私」的な発言です。何であなたそんなに偉そうなの…と思いつつ、この路線でいくことにしました。


 となると、主君に対しては必然的に(?)「可愛い私のスレイマン様(上から目線)」ということになります。

 こういう生き方してると絶対碌な死に方せんわ、と思いつつ、そこはなかなか書けません。


 その可愛いスレイマン様のビジュアルイメージを考えていたんですが、たまたま目にしたアンカラ猫(ターキッシュ・アンゴラ)の白猫。

「これ!!!!!」って思いました(笑)

「ターキッシュ・アンゴラ」で検索すると出てくる、高貴な感じの猫です。


 そのあたりからムハンマドと猫の話を思い出したりして、こういう話になりました。


 これを書いたことで、自分の中でのイブラヒムとスレイマンの力関係がだいたい固まりました。

 こんな感じのちょっと下剋上ちっくな関係でいきます。


 それはいいんですが、その後ずっと「スレイマン様=白猫」というイメージが離れず、猫化パロディの方がメインになってしまい、本筋の創作が進んでおりません(笑)


 しかも猫化パロは猫画像が本体なので、著作権・肖像権の関係で公開できないというジレンマ(笑)

 自分で撮った猫はいいんですが、肝心のスレイマン様(ターキッシュ・アンゴラ)が全部版権ですし!


 カクヨムを始めたことをきっかけに、また人間のスレイマン様を書こうかなあ、などと思っている今日この頃です。

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猫と預言者 崩紫サロメ @salomiya

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