この言葉を口にする資格を得ない事は、不幸か? それとも幸運か?

 ロマンの塊です。

 ホラー、SF、歴史、恋愛…ありあらゆるものが詰め込まれ、宛ら宝石箱の如く輝く物語です。

 時代は現代、12世紀、16世紀と、場所は日本、ヨーロッパと移り変わりつつ展開する物語は、時に二人の記憶すらも奪う事がありますが、それを乗り越える絆を浮き彫りにしてくれる文体が、兎に角、引き込んできます。

 ふと思うのは、フィクションだからこそ書けるものがある、という事です。

 吸血鬼なんて存在しない、お市の方は北ノ庄城で自害した…歴史の教科書には、そう書かれていますが、このヒロインを昇華したいと思った人は少なからずいると思いますし、私もその一人でした。

 それをしてくれた――ただの悲劇で終わらせず、ドラマチックに、また少なからず誰もが持っている絆の強さを見せてくれた…そういう意味でも、涙が零れる重いです。

「たとえこの身が灰になったとしても、俺は何度でも君に愛を誓うだろう」このセリフをいえる資格のある事は、果たして神に選ばれた幸運なのでしょうか? 自分が選ばれてないなと思う私は不幸なのでしょうか?

 それは分からないけれど、この物語はハッピーエンドです。涙では終わりません。

 この宝石箱に収まる瑠璃になる涙だったとしても、笑顔に勝る輝きってないですね。

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