たとえこの身が灰になったとしても、俺は何度でも君に愛を誓うだろう。

ayane

【前篇 First love】 プロローグ

 ――永禄十年


「市、お前の婚儀が整った。近江国、浅井長政の元に嫁ぐがよい」


「兄上様……」


 兄上である織田信長の命令は拒むことなど出来ない。兄上の命令は、即ちわたくし達兄弟の宿命だから。


 わたくしは三つ指をつき、兄上に深々とこうべを垂れる。


「有り難き幸せに御座います」


 この戦国の世。

 幸せなど、本当にあるのだろうか。


 おなごは政略結婚や人質に使われ戦の駒となる。好いた人とは結ばれぬ乱世。


 この世に生まれたことを悔いたとて、別の世に生まれ変われるものでもない。


 わたくしの意思が通らぬ世なら、兄上に逆らわず従った方がよい。


 それで乱世が終わるのならば……。


 ――浅井長政殿との縁談を了承し、わたくしはふらりと城を出て庭を散策する。ふと、目に止まった石垣の野の花にそっと手を伸ばす。

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