第32話 マニアなら予想くらいはできた(三人称視点)

 地上では、佐久間了とマイカ、そして了やマイカの弟子が指揮を執って機装唱女たちをまとめ、UFOを破壊もしくは捕獲していた。


 調べた結果、UFOの乗員はオーバーテクノロジーな合成人間か、身寄りのない人間に非人道的な手術を施した改造人間であった。改造された人々を戻すことは出来ないが、UFOから解放してやることはできた。改造されていたのは殆どが10歳前後の子供か、高齢者だった。


 解放を条件に尋問を行ううち、月の恐ろしい制度が分かった。身寄りのない者を施設からさらって改造し、硝石を埋め込んで適合した者をUFO乗員にしていたのだ。埋め込まなくても適合できる者は月に置き維持システムとして働かせ、特に適合率の高い者を『管理者』用にさらに改造しているようだ。

 適合率が特に高い者は管理者やその予備として、人格を消し身体を合成人間と置き換え、洗脳を施して月の支配者となっている危険思想の男ルドルフ・T・スタイナーを守っている。彼自身も身体の改造を施し、唱石を使いこなしているらしい。


 月でどういった作戦を行うか話し合っている間、予想到達時間より10日は早く月に着いてしまったアオイは、目の前にある施設を機装ミサイルでぶっ飛ばし始めた。

 カナデとマモルは到着次第アオイの行動を理解し、他の後輩たちに見える所から徹底的に破壊するように指示を出してから、アオイを追いかけた。


 いくつか部屋を抜けた先に突如高さがあって広い部屋に出た。気にせず奥に見える扉へ突進しようとした二人は、アオイと自分たちとの間に降り立った謎の巨大ロボ二体に阻まれた。

 そのロボは概算で10メートルはありそうだった。微妙に二体の大きさが違っている。なぜか搭乗員の姿が壁に映し出されており、南極の遺跡で見た自称ルドルフ・T・スタイナーと、歴史の教科書に乗ってるちょび髭のおじさんが映し出されていた。何かスタイナーが叫んでいたが、ドイツ語(っぽく発音した英語がほとんど)だったので三人には機装がなければ何もわからなかっただろう。

 伝わっていても三人は無視しているのだが。


 大きいほうの機体を守るように、スタイナー機がちょこまか動いていて、どっちを狙うにも狙いにくい。古い名作ロボアニメみたいな無骨な外見の割りに意外に小回りがきいている。


 にらみ合っている時に、三人へノイズだらけの通信が入った。スタイナーを拘束し、おっさんのほうは確実に消滅させろという内容だった。しかも、その内容が少なくとも日本とアメリカとロシア、ドイツを含む10か国以上の政府からの要請や命令だった。


「こいつも半分以上機装で出来てるっぽいね!元を止めるのとどっちが先かな!」

 マモルがランダムに駆け抜けながら、アオイに向かって念を送る。アオイは二人の念を受け止め、塔と『管理者』を探すことを優先した。


『アイツは……あのひよっこ娘はどうした!!』


 スタイナーは二人の様子と念の内容でアオイの行き先を察し、おっさん機から離れ、彼女が向かった方向へ扉や壁に穴をあける勢いで突っ込んでいこうとする。


「ひよっこじゃあありません!!あの子は、あたしたちの最高の後輩ちゃんよ!!」

「貴様、あの子のストーカーか!!ストーカーに改名したらどうだ」


 壁ごとロボを押し倒し、スタイナー機の進行方向に割り込む。どうやらスタイナーは、南極でのアオイの歌か行動がよほど印象に残っているようだ。


『うげぇ、ストーカーなんか要らないよお……』


 アオイの気持ちが機装を通して伝わる。マモルとカナデは同意し、スタイナーは一瞬心の中が真っ白に燃えつきたような気持ちになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る