第23話 打つ手がない
そして、ラヴィニスはひざをつきながら、笑い出した。
「(予約の時間だ)」
面白くてたまらないという風に笑うラヴィニスの目鼻口からだらだら血が流れだした。先輩たちと戦いながら強い歌を歌うなんてできないはず。
「できるよ」
ラヴィニスが立ち上がって私のほうを向いた。まだ笑ってる。
「ここにいる全員から、少しずついのちをもらっていたからね」
私向けに日本語で喋ってから、ラヴィニスは立ったまま大量に血を吐いた。それでも、彼は楽しそうな顔のままだ。
塔が本格的に動いたことで、この塔の管理者が現れた。
『お前たちの命、お前たちの心、確かに受け取った。プログラムに従い、私は私の命を彼の歌に捧げる』
いきなり現れた幼女映像に、兵士たちが誤射にも構わずどんどん撃ってくる。さっきのバズーカが一〇人以上いる。大幅増量されてる。
わずかずつでも、ここ数日の間にこの遺跡に近づいたり中に入った者の命を奪うようにしておいたのだとラヴィニスは言った。管理者いるくらいだし、もう英語のままでも分かる。
そして、ほんとは長く遺跡を見張っていたんだろう。兵士の中に、兵装を投げ出してインナーで走り回る人が出てきた。専用の肌着だったりTシャツにトレーニング用のズボンだったり色々。口々に何か叫んだり、急にうずくまって床をたたきながら泣き出したり、他の兵士たちに掴みかかったり。
脱がずに倒れてる人もいる。泡吹いてる人もいる。というか兵士たちの中にまっとうに無事な人は極端に少ないようで、そういう人たちが逃げていくのも見えている。
「それで、あんたの歌、何しようというのよ」
「例えるなら、君たちを人間に戻してあげるだけだ。君の場合、歌唱鉱石が浸食していた組織は私のつてで治療をするから、即座に死ぬことはない。もちろん、治療が進めば、命の危険は全くなくなる。生活も、他の人々と同じようにできるよ。
……彼らや君たち自身が副産物のターゲットに選ばれるまでは、ね。」
世界じゅうに一度にメルティをばらまき、塔と全ての唱石の力を使いつくし、二度と失われた状態にすること。それがラヴィニスの実行した歌の効果。
失われた状態になればメルティは消えるけど、それまで短くても半日くらい、逃げ回らないといけなくなる。建物に入れば済むとかそういうのはなくて、入り込めちゃうから、その間に私たちが戦うしかない。
ラヴィニス側や他に超常的な力を持つ人も含めても、メルティと戦えるのは世界中で二〇人もいない。今訓練中のアトランティカの子たちを能力にかかわらず全員含めても、だよ。それで世界中をカバーするのはどう考えても無理。
上書きするには、どれだけの力が必要か、管理者のホログラムに尋ねた。この場にいる唱石全部、ラヴィニスと部下含めてを一つの歌で束ねて、全員即座に今のラヴィニスみたいな状態で最低六時間歌い続ける。途切れたら即終了。
もちろん、協力しないよ、とあの顔のままにっこりとラヴィニスが顔を近づける。やめてくっつかないで。私の頬や機装に、べったり彼の血が付いた。
私もその顔を仲間にさらしたんだよなー恥ずかしい、と急に考えがそれた。思わず顔をそらすと、周りの壁が崩れていて、さっきまでより対策万全ぽい各国の兵士のかたまりが丸見えだった。先生が大人げない泣きべそかいてる。
「昔の丈夫な戦艦もぶち抜けそうなものが見えるよ」
確かに、何か大砲みたいなのが見える。さっきのバズーカが赤ちゃんに見えるわ。核ミサイルとかあんまり強いのだとさすがに吹き飛ぶ。吹き飛ぶ衝撃は全部は相殺できないから、それはさすがに死ねる気がする。
早く何かしないと、あれでみんな死ぬ。そしてラヴィニスが死んだ場合、同時に世界中にメルティがばらまかれ続ける。でも、私は何も思いつかない。一番思いつきそうな先生は完全に気が弱ってて役に立たない。
先輩が走りだそうとしてラヴィニスに止められる。
「今動くと、彼らはぼくらを撃つよ。その小型弾頭で。核かもしれない。そうでなくても、必ず撃つだろうね。他国に奪われるくらいなら、なかったことにするさ、ぼくが大統領でも、書記長でも、国家主席でもね。」
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