第13話 先生、ごめんなさい
日本なら節分が過ぎて、バレンタイン前のそわそわした空気になるくらいかな。もちろん、今いる施設にそういうのはない。
バレンタインデー自体はある。緊急事態がない限り全体のお休みとなっていて、集まってお菓子作りをして、みんなで食べるという、多国籍らしいというか、おおらかでのんびりしたイベントになっているようだ。
私たち機装唱女を元気づけようと、ちょっと早いけど施設全体でお菓子パーティが行われた。家族の話とか、楽しかった思い出とか、変なエピソードとか、できるだけ楽しい話題を持ってきてくれるけれど、どうしても現状確認や世界中から入ってくる異常行動の話題を無視できる状態じゃない。
先にぱーっとパーティして少しでも気を楽にしてから、本社との通信やニュージーランドから漏れてくる電波でニュースを拾う。動物だけじゃなく、機械やコンピューターの不調まで増えている。
「機械やコンピュータだって、動かすのは人間だ。人間の不調によって入力や操作にミスがあれば、不調も増える。」
先生が大きなため息をついた。連絡をさばくのが大変で休みを取れてないのか、目にくまができていて、やつれて見える。
ルルイエから近い場所や海沿いだけだった現象は、かなり内陸部まで広がっていることが分かった。日本なら長野や岐阜の山奥とか、アメリカ大陸なら山脈の高地とか。あとはチベットとかネパールとかのスゴイ内陸部。そういうとこ以外、全く被害がない場所というのはなくなってしまった。
パーティのお菓子は翌日も十分に残っていて、おしゃべりしながら食べるときは、気がまぎれた。カナデ先輩は襲ってこないものの、どこかしらからじっと見てくる。
それが、気づいたら気配がしなくなっていた。特に心配ということもなかったけど、昼食のときにも来なかったし、食事を置きに行ったら部屋には先輩もマモルさんもいなかった。
とりあえず食事を置いた私は、戻るときに先生とマモルさんの声をきいた。特に使っていない空き部屋ばかりがしばらく並んでいる通路のはずで、明かりも点いていないから暗い。
自分の車いすの進む音が少し邪魔だけど、声は意外と簡単に辿ることができた。細く明かりが漏れてる部屋を見つけた。先生が大声を出したのが聞こえる。見つかったかな、と思ったけど違うようだ。
反論しているのか、マモルさんも大声で何か言ってる。
「アイツを放っとくっていうんですか? ヤバイよ。あたしより付き合い長いんだもの、どういう性格かは知ってるでしょ?
……絶対、アイツは、戻ってる。あたしがアイツでも、きっとそうした! カナデは、そういう子だもん!」
先輩は、部屋にいないんじゃなかった。マモルさんの言うとおりだと、私は思った。あんな厳重に見張りがついてたのは、今までもそうやって、動けるときは戦うときだって、そういう過ごし方だったからなんだと、予想はつくよ。
私は車いすから降りた。三秒立ってるだけなら手すりがあれば充分だもの。
「機装、展開。」
小声で展開の歌を歌い、水上スキーのように浮き上がって飛ぶ。少しずつスピードを上げ、申し訳ないと思いながら、外が見えたとこから、窓をぶちやぶって外へ出た。音がすごかっただろうし、やっぱり警報音が聞こえる。
「おい!何考えてる!カナデの『病気』が移ったか!?」
先生の声を無視して、私は高度に気を付けつつ速度を上げていった。
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