第3話 貴女、いい加減なこと言わないでッ!

 本当なら新学期が始まる日。先生に引っ張られるようにして、私はあてがわれた病室を出た。広い訓練場で、屋内とはいえ検査着一枚じゃ寒い。


「いきます!」


 気合を入れるためにほっぺたを叩く。ぱし、ぺし、と二回たたくのは私の癖だ。息を吸い込んで、「展開の呪文」を歌う。

 歌は上手くないんだけど、よっぽどへたくそでない限り、威力が下がったりはしないと聞いてる。大丈夫。


 短いメロディを歌い終わると、胸の傷あとから光があふれて、変な機械のような鎧のような、装備が勝手に形作られて、纏われる。説明は何度も聞いて、カナデ先輩や、もう一人の『被験者』の記録映像を見て、理解したうえでやってるけど、


 しっくりこないというか、こそばゆいというか。サイズがあってない制服で立ち尽くす入学式、みたいな。


『よーし、よし、ちゃんとできたね。……ふむふむ……ふーむむ……む、訊いての通り、君の中にある石は、カナデ君の石を採取した大きな石の欠けらなんだ。でも、やっぱり違うねえ。』


 カナデ先輩が「機装展開」すると、SFファンタジーなゲームの近未来の鎧×かわいい制服っぽいかっこいい外見になるんだけど、私が「機装展開」すると、ロボットアニメの巨大ロボットの胸や腰みたいな、T字みたいな形のがとりあえず急所だけは守ってまーす!みたいな配置で表れる。胸と股間だけ守るって何なの。


 佐久間先生が言うには、イメージの問題、らしい。カナデ先輩も、初めての時はごてごてとパーツが体にくっついてるという風だったと先生は話した。今の私と一緒だ。


「一緒じゃないよ? 君と違ってもうちょっと人の身に着けるものっぽかったもん」


 先生が「いっしょだ」の「い」くらいで素早くツッコんできた。私は床に手を付いて本気で悔しがった。号泣するかと思った。




 石は、波長のようなものをそれぞれ持っていて、合わない人に埋め込むことはできない。展開の呪文によって展開することで、石と使う人の力の限り、鎧や武器を自由に創造できる。理論上は、らしいけど。石はいくつかあり、そのうちの一つを、欠片に分けて、実験用に何人かに埋め込んで研究中なのだ。

 で、本当はカナデ先輩と、カナデ先輩が本来パートナーにするはずだった人と、別の石に適合した、石の力を見つけるきっかけとなった人の三人で実験を進めてから、人を増やす予定だったんだと先生が教えてくれた。しかし、予算がない状態で石が私を選んで勝手にめり込んでったせいで、こんなことになっているわけだね。


「元のそのパートナー候補のかたに譲る事ってできないの?私なんか後回しにしてさー」


 話を聞きつつ一度展開を解いた私が愚痴ると、カナデ先輩がキレた。


「私だって、そうしたいッ!! お金の問題なら、私とあの子で何とか出来るッ!

……ねえ、先生どうしてやらせてくれないんですかッ!!」


 カナデ先輩は泣いていた。ごめんなさい、と言葉が口からすらーと出てきた私を、先輩は一発ぶん殴った。ビンタとかじゃなくて、本気のゲンコツだった。グーパンチだった。うん。


 走り去る先輩を、私も先生も、他の医療スタッフの人も、止めなかった。止めようともしなかった。

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