第17話 ありがとう、みんな(三人称視点)
アオイは目を覚ますと、目の前に倒れている先輩を抱き起こし、泣きながら肩をゆすった。
「先輩ッ!先輩ッ!お願いです!目を覚まして!ねえ、ねえってば!!」
その傍でネイが目を覚まし、冷静に短い祝詞を口にした。
「大丈夫よ。応急処置だけして、さっさと帰れば、あんたたちの命は助かる。帰るくらいの間は耐えられる機装を提供できる、かな」
歌うための主要な施設である塔を失ったのだから、唱石の力の利用はかなり制限されることになるだろう。
「させるわけ、ないわ」
アオイたちの固まっている数メートル先に倒れていたナイが起き上がる。
「もういいわ。あんたたち全員の命をもらう。」
血を吹き出しながら、よろよろとナイは立ち上がろうとして、ひざを折って顔面から地面に倒れた。ごろりと体を倒してあおむけのまま、狂ったようにくすくす笑い始めた。
アオイは確信した。そしてその通りナイにはまだ隠し玉があった。
例えていうなら、塔と機装の力と唱石は、プールと水と供給する施設のようなものだ。プールがあれば、水を抜いてもまた水を満たせば使える。先ほどまでは、ナイは皆が泳げないように施設の水を限界以上に一気に大量に別の場所に流そうとしたことになる。アオイたちは、施設を一時的に停止しようとして方法がないからとりあえず施設の一部をさっき破壊したわけだ。
隠し玉は、プール自体を破壊すること、である。ナイは水を氾濫させたいのだ。
塔の意図的な破壊を実行されたら、その時に使用されたエネルギーが人々の浄化に使われようと使われなかろうと関係なく、アオイたちは瘴気に侵されるか、機装がないから外部と連絡が取れず帰る手段もなく餓死するか、ルルイエ二号と共に海に沈む。
話している間にも、アオイは体に力が入らなくなっていくのを感じていた。唱石がなくなれば、事故直後に逆戻りとはいかないが、今ある傷は確実に治らない。カナデも光で粉砕された機装の欠片がさらさらと地面にこぼれるのをみて戦慄した。ネイは目を覚ましているが、歌った反動で動けない。
「じゃ、出来るだけ、いきますよ。あたし、まだ何ともないしさ」
マモルが二人を抱き上げ、歌い始めるが、ルルイエ二号からわずかに離れたあたりで機装は分解し、三人は海に落ちた。そばの小岩に必死によじ登る。
わずかに見える太陽の光を求めるように、三人は体を横たえた。そこで、カナデが急に起き上がり、アオイの頬を叩いた。マモルが止めようとしたが、カナデはもう片方の手で制止する。
「よくも、私の大切な人を傷つけたなッ!!」
カナデは、勢いよくとびかかると、そのまま二人を抱きしめた。
「何故だ!!なぜ、私を追いかけてきたんだ!!私が勝手な行動をとっただけだ。そのまま放っておいてくれるか、せめて本社に連絡し救援を連れてこればよかったんだ!なぜお前一人で来たんだ……お前が一人で、私を追ったら、マモルが、心配、するだろうが……」
ぐずぐず涙を流しながらどれだけマモルを愛しているのか語りだしたカナデ。マモルは恥ずかしくなって、わああ、と声を上げ、
「あっ」
何かに気付いて、動きを止め、自分の胸に手を置いた。アオイも続いて、自分の胸に、唱石をいつくしむように触れた。カナデがすっと真剣な顔に戻り、同じように自分の胸の上に両手を重ねた。
三人が気づいたのは、胸の内に生まれた、一つの歌だった。機装もないのに、互いの胸の内に、同じ歌があふれそうに渦を巻くのが分かった。
アオイ、マモル、カナデは歌いだした。わずかにネイの声が混じっているのを三人は感じていた。三人には、あたたかな光景が見えた。
冷たいガラス管にそれぞれ眠る、見慣れた姿のネイと、彼女に似た二人。それを囲むように立つ十数人の人々が希望を込めて歌いだす。その歌は、三人がたった今歌っているその歌と同じ音を伴っていた。
その歌は、ネイたち三人が生まれたときにそれを祝って作られた、超古代文明人たちのバースデーソングだった。
全ての人に、想いの歌を。全ての歌に、人の想いを。
人を思う気持ちと、それを歌うことをたたえる内容。
幻の中で、ネイが目を覚まし、口を動かす。ありがとう。三人は同じ言葉を返した。
幻が消え、三人は抱き合って姉妹のために泣いた。
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