第27話 私はアイトルになる気がない

 本当なら一緒に卒業するはずの人たちが着飾って敷地の端にある大きな講堂に消えていくのを、私は遠くの教室の窓からため息をつきながら眺めていた。怪我や残党メルティのせいで一年半休学した分、大学五年生になってしまった私は、就活がない代わりにレポートと卒論でいっぱいいっぱいだ。




 世界中をUFOが飛び交っているにもかかわらず、そいつらは飛んでるだけで何もしてこない。前よりはずっと平和だ。メルティの残党は数か月に一度、わずかな数しか現れない。出撃禁止を出されたままの私を筆頭になかなか出撃できない私たちがいなくても、十分な数の後輩たちが育って、戦っている。


 ちなみに、私は足が機装なしでまともに治るまで出撃禁止。定期的な通院以外研究所にも入れてもらえない。訓練場には私が来たら捕獲して建物外へ追い出すように注意書きが貼ってあると後輩から教えられた。

 カナデ先輩はマモルさんと婚約してからファッションモデルとしてスカウトされて、撮影に行くようになった。撮影現場付近にしか出撃していない。研究所にネイさんの身体が眠っているが、目を覚ます様子はない。マイカちゃんは大きな手術のためにアメリカへわたり、そのままそこで生活しているので、メルティ退治もあちらでやっている。6人の中では、国内で出撃しているのは指導教官に加わったサユちゃんだけかな。




 UFO出現の少し後に、機装の存在が世間に公表された。面倒な事情により、メルティ退治のほかに、災害や遭難救助が仕事として加わった。

 アトランティカは、政府からの要請で後輩たちを大勢育成しなければならなくなった。機装に関して公表されていることは、


『適合率が一定以上ある者が、歌うことで唱石から機装を展開し、その力を使うことができる』


ということだけ。歌ってみないと適合率は測れない。そして、全国に配備するために、アイドル選抜に適合者探しが合体した全国規模のオーディションが、私が入院している間から何回か開催されている。早い子はアイドルユニットとしてもうデビューしている。


 さらにめんどくさいことに、既に適合者である私たちにも、アイドルをやれと言う話が舞い込んできていた。既に中堅どころのアイドル事務所から男性ユニットがデビューして、ライブパフォーマンスに機装を取り入れてるというのを聞かされた。

 マモル先輩たちのモデル活動は機装と関係ないから、本来の仕事と両立できないという言い訳は通用しない。みんな成人してるし私なんか病院で独り暮らしみたいなもんだし、「親が許さない」というのも使えない。


 大学の構内にまで生えてきた、どっかのアイドル事務所からのスカウトを完全無視して、ダッシュで校舎の中へ逃げ込むと、教授や友達が慰めや冷やかしの声をかけてくる。

 足の保護以外に機装展開禁止の状態で、アイドルなんか出来るわけないでしょ。

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