第25話 あなたを 憶えていたい
マイカちゃんが機装銃を突きつけながら、サユちゃんがラヴィニスに尋ねる。
「あんたがしたいのは、塔や石の力をなくすことと、メルティを降らせるのと、どっち?もしどっちかだけになるとしたら、どっちがいい?」
ラヴィニスは意味が分からないと答えて、少し待つように言った。それから、少し不満そうな表情で、この遺跡をなくせたら今はそれでいいということにする、と答えた。
答えを聞いたサユちゃん姉妹は、遠ざかったぶんだけ映像が薄くなってる管理者に尋ねた。メルティを目いっぱい出現させるというラヴィニスの歌の効果を、単に塔や唱石の力を消耗するように変えるか、効果を上書きすることはできるかどうかだ。
『お前たちが、その男よりも大きな導力をもって、優先順位の高いプログラムを歌えば、私はそちらを先に処理する』
私は言った。
「あんたたちも私たちと一緒に歌うことって、出来ない?」
管理者は少し間をおいて答えた。
「我らに自殺を命じる権限をお前たちは持たない。」
私たちが何もしなければあのトンデモ兵器大行進で結局あんたたち死ぬのよ? 私たちは死にたくない。死なせたくない。せっかくやれることが見つかったのに、やらないで死ぬなんて私は絶対にゴメンだよ!!原初の塔のユイさんは私たち人間が生きていけるようにと力を貸してくれた。これでダメになったらユイさんに、リディアさんに、待ってくれてるはずのネイさんに合わせる顔がないじゃない!
私はノリと勢いでホログラムを殴った。あ、手ごたえがある。すごいな超古代文明の科学。
他の管理者の名前が効いたのか、管理者は私たちと共に歌うと答えた。
この塔の管理者三人と、リディアさんたち三人、そして私たちと、ラヴィニスと、部下が三人。プログラムの内容は、塔を破壊することと、どうしてもゼロにできない副産物メルティをトンデモ兵器大行進にぶつけること。
サユちゃんの発言からここまでは結構あっさり進んだのに、一番大きな問題が降りかかった。歌がない。プログラムを何かメロディに載せなくてはならない。なんでもいいから、全員が歌えて、前奏とかでプログラムの始めを歌える奴。
「そんなものはないだろ」
先生は黙ってて。
ラヴィニアが鼻歌を歌いだしだけど部下三人以外何の曲か全くわからない。当たり障りのない、CMとかでよく流れてるクラシック曲をマモルさんが口ずさんだけど、私やサユちゃんがCMで使ってる部分だけ知ってた他は誰も知らなかった。
思いつくまま、頭に浮かんだ曲を片っ端から口ずさむ。もちろんその間に何発か謎光線がUFOから飛んできて、避けた。あちこち撃ってるらしく、少し離れたところでどこかの国の兵士や乗り物がまとめて吹っ飛んだ。
同じ想いが込められれば、バラバラでもいいと管理者が言うけど、まさに、そんなものはない、と思う。即、先生とラヴィニスとカナデ先輩が『ない』と口に出したのでリディアさんがたしなめた。
と、結構近くで光線がさく裂した。がっしりした自動車が爆発して、辺りにいろいろ飛び散る。誰かの持ち物らしい、音楽プレイヤーが誤作動で曲を流し始めた。
私が拾って、おまけ程度しか音量の出ないスピーカー部分に耳を当てた。そして、口ずさむ。
「おお、なかなか面白いものだね」
他人事のようにラヴィニスが喜ぶ。
「何か知らないし、軽そうな歌だが、なぜかほっとするな」
カナデ先輩は不思議そうな顔をしている。部下二人とマイカちゃんは歌いだしたうえ、機装から増幅して、流し出した。管理者たちも少しずつ歌いだす。
私も、昔聞いたことがある歌だ。私が生まれる前、両親も子供だった頃に大ブームになったアニメの主題歌だ。主人公がアイドルを目指し、戦争で世間が暗くなったり軍に握られた政府の規制で戦争の歌しか歌えなくなったなかで、主人公が周りの反対を押し切って、アイドル生活最後の曲として片思いの相手に向けて歌う恋の歌。
……という設定で、最終回の前の話のエンディングとして使われた。お話の中で大流行し、実際に声優さんが歌って現実でもチャートに結構長く入っていたという曲だ。お父さんも曲を購入したらしい。
誰からともなく、何もしゃべらなくなる。私も、全力で歌う。こんな甘酸っぱい初恋とか、したことないけど、こんな風に過ごせたらいいな、と思いながら、歌った。
猛吹雪の中、空の色がいつの間にか変わっていた。それでも、まだやめるわけにはいかない。管理者たちが認めるその時まで、歌は止まらない。
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