第4話 先輩、痛いってば

 ゲンコツされたせいで、私は一月八日の残りと九日の半分を、横になって過ごしたのだった。

 最初は気にならなかったけど、先輩が立ち去ってしばらくしたら急にめまいがして、立っていられなくなってしまった。床に片手を付いてかがんていたけれど、バランスを崩して転んだらそのまま起きれなかった。結局スタッフや先生によって病室まで戻された。しばらくは脳がぐらぐら揺れてる気さえしていた。


 見舞いなんかいない。ただ、定期的に一日三回くらい食事やチェックのために来る看護師さんと、あれからずっといる佐久間先生しか見ない。先生はずっといる割に、食事とかお風呂の補助をしてくれるとかそういうのはない。看護師さん任せ。ま、男性だしそんなもんか、と思う。

 九日の夕方まで、目が回って首を動かすと胃酸をはく状況だったから、お風呂入ろうとか体拭いてもらおうとか全く思わなかったけどね。




 佐久間先生が、カナデ先輩のこと、というかこの石の研究の始まりとどういうふうに進んできたかということを話してくれた。


 この石は、どこか海外の遺跡で見つかった鉱石で、発掘隊員の子どもが崩落に巻き込まれた時に偶然子供の傷から石が入って、子どもの命を守ったと言われている。その女の子は怪我が治った後、周りの人に、遺跡の発掘調査をやめるように訴えた。

 女の子は遺跡の発掘が続けられるとわかると、遺跡を露出することで人に危害を加える存在が解き放たれてしまうことと、それを放っておくとだんだんひどくなって、やがて世界中の人に良くないことが起こるということを訴え続けた。


 そして関係者だけの秘密だけど、実際、メルティが遺跡周辺に現れ、発掘隊は石に守られた女の子と、彼女のそばにいて守られた数人を除き全員死んでしまった。


 その女の子ネイは研究の第一人者として、この病院を隠れ蓑にした研究所『アトランティカ』に所属し、メルティ事故から五年たった今も、鉱石と遺跡の解析をしている。研究所にいないことが多くて私はまだ顔を合わせてない。けど、『新しい実験台がようやく手に入りましたか。一度、見に帰ります』というなんだか嫌な予感のするメッセージを佐久間先生が見せてくれた。もうすぐ会えるのだろう。

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