第8話 私、本気でやります


 一月二〇日、私は機装唄女として正式に研究機関アトランティカの一員になった。先輩たちほどじゃないけど、早退したときの実戦で先生やマモルさんに教えてもらって何とか戦果を挙げられたのと、政府機関や警察の人と先生や先輩が話すときに一人だけ追い出されるのが不便だから身分を与えようというのが理由。


 機関や本社『アトランティス』の偉い人や研究所の関係者は、政府の諜報機関の人に近い身分を持っている。例えばメルティ退治のときに何か壊しても、警察の人に身分証見せて、アトランティカの人だとわかれば責任は問われない。壊されたほうも政府や専用の基金から補償される。


 自衛隊はいいけど(先生の身分証で即従ってくれる)、警察の人の相手ってほんとにめんどくさいのだ。相手も仕事だから仕方ないけど、私だけ学校の生徒手帳しかないから学生としてしっかり補導しようとする。


 私個人としては、ずっと『民間協力者さん』と呼ばれるのが嫌だったのと、やっぱりいちいち私だけ追い出されるのが嫌だったからかな。どうせ後からある程度先生から話を聞くのに、機密だからと民間人は追い出される。


 何より、カナデ先輩に『ニセモノ』扱いされたくなかった。本気度を見せてやるー!と意気込んてみても、昨日から先輩はマモルさんとともに、会社としてのアトランティカの本業である遺跡研究のための長期任務で太平洋のどこかにいる。




 二〇日の夕方以降、私が出動できる範囲にはメルティは現れなかった。沖縄か東京都だったか、離島に数体現れたというのがあって、アトランティス本社の研究員さんが倒した。マモルさんがずっとメッセージをくれてたんだけど、二六日は丸一日来なかった。


 二七日の夜、その日も来ないのを確認して寝ようとしたところで、佐久間先生から電話がかかってきた。先輩たちが同行していた遺跡調査の現場に大量のメルティが出て、二人とも戦えないほど負傷してるという内容だった。


『僕と一緒に、今から現場に向かう。

 僕も連絡を受けたばかりだ。五分後に港の専用ポートで落ち合おう。』


 私は機装展開してから上着を羽織り、窓から文字通り飛んだ。全力で港へ向かう。


 任務の内容は、先輩たち含む負傷者の救出ののち脱出、というもの。分かりやすい。私が制御できるぎりぎりのスピードで飛んでも、先生の全速力より早い。私は場所を言葉でしか知らないので先生に合わせて飛ぶ。

 交代で抱えられて仮眠。夜が明ける前に現場上空に着いた。機装を変化させ、最適な速さで私たちは海底にある発掘現場を目指した。上から見ても、覆った構造物がめちゃくちゃになっているのと、先輩たちがぎりぎり張ってるシールドが見える。


「アオイ、リョウ、現着しました! これより作戦行動を開始しますっ!」


 叫びながら、速度を落とさずシールドとメルティの大群の間に降り立つ。先輩ほどじゃないけど、巨大な剣をつくって横に振る。押すんじゃなくて、しっかり切りたいので薄くて長いイメージ。深夜アニメの、強い長剣使いのテーマ曲を歌ってイメージはばっちりだ。そのアニメはファンタジーだから一見ペラペラだけどすごく丈夫で切れ味もいい剣が出てきたっけな。その剣よりは厚みがあるけど、日本刀みたいに薄く薄くを心がけた。

 素早く決めたい。一気に大量に横薙ぎにして数を減らすように心がける。


 その間に先生がシールドを重ねて張り、負傷者のトリアージと、重症者の治療をできる限り行う。脱出は、もともと使っていた船を機装でカバーして全員乗り、私の力で全力ですっとばす予定だ。




 船に負傷者を全員載せ終え、最後に先生が乗り、私が浮上に必要な機装の強化のために歌おうと息を吸ったところだった。

 何か、聴いたことのない歌が聞こえだした。ところどころ、機装が反応して胸がちくちくする。胸の痛みは時々、ズキズキと強くなる。先輩たちは機装解除済みで体の状態もよくないから、しばらくは展開自体できない。誰の歌なんだろう。

 気にしながらもう一度息を整えたのだけど、そこで私は猛スピードで近づいてくる黒い何かを見た。


「あたしはここよ、おバカさん!」


 変声器かなにかを通したような、だけどたぶん小さい女の子のような声。私は機装で厚い籠手をつくって、黒い何かの攻撃を受け止めた。受け止めたら痛そうだけど、避けたら船がやられる。

 受け止められた黒い機装は、離れた位置にすっと浮かんだ。


 真っ黒な機装。血管のように何か赤い流れが表面に縞模様のように浮かんでいる。ゲームのラスボスとかでいそうな、羽っぽいデザインが背中に生えてて、よくそれであんなに速く動けるわね、と言いたくなった。


 離れると同時に、先生が足止めを申し出てくれる。だけど、あの機装の人は明らかに私に声をかけてきている。だからきっと、黒い機装の人は私を帰してくれないと思った。先生に船を出すように頼んだ。


 先生が船を出す前に、私たちの周りの地面が揺れ出した。海底が盛り上がっているのだと気づくと同時に、余裕がないというか、驚きと恐怖が沸き上がっていた。動くことを忘れているうちに、黒い機装は遺跡の奥へ向かって飛んでいく。

 遺跡の奥に、白い岩石?で出来た塔がどんどん高く盛り上がっていった。歌の力で、瓦礫が積み上がっていくみたいだ。


「『フォーネ』は帰さないわ。ここで死ぬまで謳ってもらわなくてはならないもの」


 黒い機装の人は私と先輩たちだけを見ている。たぶん、フォーネって機装唱女のことだ。

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