第28話 あのさ、水面下とか見えないから

 機装の存在が公表されたことによって、私たちに身近なところ以外では、政治家や国同士の付き合いにも面倒くさい影響が広がった。

 機装の力は、核とは言わないけど、壊すだけなら戦闘機や軍艦に載せるミサイル並みの威力を発揮できる。そして、管理するのに広い空母のようなスペースは要らないし、飛行機みたいな莫大な維持費もかからない。


 アトランティス傘下の会社や支社の分布から、日本とアメリカ以外は適合者探しからしなくてはいけないし、今いる適合者の人数的に日本とアメリカを危険視する軍関係者やらジャーナリストが腐るほどいる。もちろんというか、公式な会見を開いて非難したところはまだないけど、水面下での牽制は恐ろしいものだと、内閣府の人が話していた。

 人的資源が豊富で分かりやすい仮想敵がいる中国やロシア、インドなどは、特に技術を欲しがっているらしい。さっさと適合者を大量に確保して、月のUFO基地に送り込みたいと表向きには解釈されてる。


 情報や技術は渡したくないので、日本もアメリカも、政府は関係各所に恐ろしい圧力をかけている。その圧力で、わたしは怪我が治りつつあっても、災害救助には参加できなくて、ごく普通の大学生活を送るしかない。新人の子たちも、既にアイドルや歌手としてデビューしている人以外は、機装を纏うことは制限されている。訓練も研究所の地下でやっていたような大掛かりなのができないので、研究所以外ではスポーツのアスリートに交じって体力づくりに走ったりしてるらしい。




 4月20日、月から巨大UFOが一機だけ飛来した。天気予報で表示される衛星写真に写るくらい巨大だった。テレビ放送がジャックされ、月全体と南極の一部を領土とする『帝国』の成立を宣言する、というプロモーション映像と、反対すれば世界じゅうの宇宙基地を全て破壊するという文章を読み上げる人の映像が流れた。


 見張りと言わんばかりの数え切れない小型UFOを残して、巨大UFOは月へ帰っていった。

 SLBMなどをUFOに打ち込んだ国が、基地まるまる一つをビームでぼこぼこにされたり、アメリカでは攻撃派と静観派が衝突したり。日本でも機装唱女は月へ行けないのかという議論が巻き起こり、宇宙船で打ち上げろと言う有識者という名のただのジャーナリストが現れた。何の有識者なんだろう。


 佐々木先生と内閣府の人がメディア対応の担当となり、テレビのニュースやワイドショー、ネット上の配信放送にも出ずっぱりになった。先生の仕事を全部助手さんに任せるのは無理だから、マモルさんが臨時教官として権限を分けてもらうことになった。

 アイドルになりたくないならこっちで教官をやらないか、と私も誘われている。治るまで足を堂々と機装でカバーしながら移動できるし悪くない。問題は学業との兼ね合いだけなので、ゼミの教授と話をしたら返事をしようと思っていた。


 が、その日の午後、私は学校近くの住宅街で拉致された。ヤバイ組織かと思ったが、連れていかれた先は内閣府の特殊な部署が使う専用の建物の一つだった。


 拉致した人たちは、私と先輩たちにはしばらく戦わないでほしいと言った。政府の中には、これまでの出撃でいろいろな意味で有名になってしまった私たちの扱いに困っている部署がある。治安の悪い国では適合者を誘拐しテロ組織に売る業者がいるらしく、仮に私がどこかに売られたら、ややこしいことになる。


 救助活動で有名になったマモルさんや、モデルをやってるカナデ先輩には対人用やマネージャーとしてボディガードがいる。だから人の目やマスコミの目があって手が出しにくい。でも私は目撃者数人以外何にもないもんね。

 機装の適合者の存在は公表されているが、誰が適合者なのかというのは、本人が公表しない限り分からない。私が変なヤツに拉致されても、アトランティカが「その人うちの社員で適合者なんです」とか言わない限り、世間的にはどこかの女性がなぜか行方不明になりました、で済まされる。

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