第5話 私、初陣です!
一月九日の夜、病室で適当にテレビを見ている時に佐久間先生が飛び込んできた。
出動要請、らしい。カナデ先輩がいるじゃん、と私はてきとーな返事をしたが先生にテレビの電源を消され、強そうなスーツの男二人にひょいっと車いすに載せられて運ばれ、佐久間先生の車で現場近くまで行った。
適当な広い店の駐車場で下ろされ、「展開」する。あとは脚力で建物の屋根とかをかっ飛ばして行くんだって。力の調節とかバランスの訓練は夕食までみっちり詰め込まれて、最低限はお墨付き貰ったし、そのあいだになんとか見た目もマシに展開できるようになったし、先生もついてるし、大丈夫のはず。
『リョウ試作機、アオイ機、機装展開しました。現場に向かいます』
通信機能もはいってるので、しゃべったことは全部研究所にある「司令室」に丸聞こえ。先輩が戦っている音も聞こえる。頻繁に歌って、出力や形状を変えてるって想像がつく。
通信じゃなく直に剣が切り裂く音が聞こえるようになってきたところで、先生は報告するようにいくつかしゃべり、私は上半身を覆うくらいの盾を展開する。難しい調節なんかできないから、とにかく押す!!
うわあああああああああああああ!!!!!
やけくそで叫びながら、盾でメルティの大群を押していく。押し飛ばされたり、潰されたり? して、真っ黒な表面を虹色に光らせたメルティがばらばらに分解していく。押してる重さは、あまり感じない。でも確かに質量っていうか、存在はしてるのはわかる。重くはないけど、反動というか、押してる感覚がはっきりある。
そのまま少し謳って勢いを上げつつ、奥に見えてきたボスらしき巨大なヤツに向かって行くところで、背後からもんのすごい超高速で何かが私を抜かしていった。カナデ先輩だ。あの高速でミサイルみたいにすっ飛びながら、歌い続けてる。
「はああああああッッ!!!!」
みるみる離れていった先輩の、ちょっとした雑居ビルくらいは両断できそうに巨大化した剣が、眩しく発光しながら、ボスをぶった切った。
普通のと違って、でろりとした水あめ状になってゆっくり地面に広がりながら、ゆっくりじっくり分解していく。気色悪い。触っても溶けないといっても、さわりたいわけなんか、ない。
近づかずに立ち止まった私。先輩は細かく飛び散ったボス水あめを適当に手で拭い去り、また私に剣を向けた。でっかいままだったら真っ二つだよ。
先生が止めようと叫びながら走ってくるし、通信もそれを応援するように、先輩を説得しようと呼び掛ける。先輩は顔色を変えずに、歌いもせず走って近づいてくる。
一階建てのショッピングモールの上を逃げる私に、知らない声が割り込んできた。
『いいじゃない。そのまま一度、とことん「お話」したらいいんじゃないかな』
アニメの幼女声というか、年齢不詳な女の人の声。
「機装、展開。……シールドを張ったから、三時間くらいは、この中なら何やっても平気だよ? あ、確認したからメルティの打ち漏らしはないよ。存分にお話していってね!」
近く、といってもたぶん数百メートル先で声がする。同じくらい離れた別のところで先生が真っ青になってるのが見えた。
「ネイ!!」
先生が呼ぶと、
『じゃあねー。結果はあとで教えてね?』
ネイさんの声は通信しか聞こえなくなった。同時に、先輩が目の前に迫ってきて、キレイなサマーソルトキックが決まって私は後ろに吹っ飛んだ。駐車場の縁石で頭を打ったけど出力のおかげなのか、少し瞬きしただけでめまいはしなくなった。
めまいがなくなったと同時に、先輩の細く締まったおみ足が風を切って迫る!
「ごばっ!?」
腹パンじゃなくて腹キックで私はコンクリート舗装にたたきつけられた。先生が追いかけてきてくれたけど、先輩は帰投するとだけ言って去っていった。
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