第11話 私、動けないし動かない

 二日ほどフェリーで過ごした後、私たち機装唱女は、逃げたときの高速艇に乗り換えて、ひたすら北西へ向かった。あと数日行けばニュージーランドらしい。手前に本社所有の島があってそこに遺跡調査隊の基地がある。

 あのフェリーも充分最先端の治療設備なんだけど、とにかく早くルルイエから離れることを優先することと、あの黒い少女が攻めてきても遠慮なく迎撃できるようにという本社やユイさん、先生の判断だった。


 ニュージーランドとルルイエの丁度中間ぐらいに、あの塔や遺跡があると、佐久間先生が教えてくれた。あきらめというか、教えたくなかったって良く分かる顔してた。


 実は、私、体じゅう猛烈に痛くって、フェリーでは最初に両親や先生と話した以外ずっと寝ていた。治療が始まってから初めて、足が血だまりみたいになってると気づいて、忘れていた痛みが一気に戻ってきちゃった。

 先輩たちはもちろん絶対安静で脱走防止に屈強そうな人が交代で見張ってたらしい。ユイさんはまだ目を覚ましてない。先生は怪我は石のある左手だけとはいえ、体力を取られてるのは一緒だ。ゆったりした椅子にずっともたれかかって過ごしていると言っていた。




 一月ももう来週で終わる。石のおかげで私は足以外は結構健康に近づいてきた。先輩も目を覚ました。

 学習プリントをやっている時にふと学校のことが気になって先生と話した。私は違う事故にあって骨折して入院ということになってるらしい。おかげでクラスでは不幸女王とかいうあんまりなアダ名が出来上がっていると聞いてちょっとへこんだけど、なぜかツボに入って大笑いしてしまった。


「笑えるようになって良かった」


 佐久間先生がちょっと寂しそうに微笑む。


「ずっと怖い顔してたって、医療スタッフから聞いてる」


 そりゃあ、とにかく痛いんだもん。フェリーの時から定期的に鎮痛剤の点滴を受けてるけど、まだまだ痛いんだもん。


 言い返すと先生も返してきた。


「眠ってる間も、らしいよ。脳波見る限り、嫌な夢でうなされてるんだろうって。」

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