第10話 何か知らないけどとにかくヤバイ島
あの海域から離れた私たちは、本社の派遣した救護班の高速艇に拾われた。本社からの救援の船と合流するまでの間に、私は佐久間先生に、あの遺跡が何なのか説明を求めた。特に、あの白い塔について。
先生とユイさんの反応は、何か知ってる人っていう感じがした。
先生も負傷しているから、遺跡全体とか細かい説明は抜きで、とにかく塔のことだけ聞いた。あの塔は、中に唱石のとにかく大きいのが入っていて、いわばサーバーとかスーパーコンピュータみたいな役割をしているのではないかと予想している、とだけ教えてもらった。今は十分だ。どうせ細かいこと聞いても専門用語で分かんないだけになる気がするし、私のほうが怪我がひどくて、医師のおっさんが本気で怒ってるからおとなしく引き下がる。
「後のことは……君のご両親に聞きなさい」
先生は爆弾を落としていった。なんで、こんな時に私の両親が出てくるの?
医師のおっさんも、早くしてやるから歯ァ食いしばれよ、と言ってものすごい勢いで薬を塗って遠慮なくぎゅうぎゅうと包帯を巻く。もちろん痛いけど、けがの痛みのほうがひどくてもうどうでもよかった。見た目は石のおかげでふさがるの早いし、どうせ合流したら病院みたいなしっかりした施設で治療してもらうんだし、それまでに血だらけにならなきゃいいよ。
高速艇に拾われてから一時間くらいで、丸ごと、巨大なフェリーに収容された。すぐに全員医療スタッフに運ばれて、治療が開始される。私の場合は内臓のダメージのほうが問題で、安静のために医療カプセルに突っ込まれた。寝てる間に、先生の助手さんに調べてもらって、両親の部屋だけ教えてもらった。
療養する施設のある島まで、まだ半日近くかかるらしい。機装で飛べば一時間しないで着けるかもしれないし、陸上なら数時間あればつけると思う。船ってゆっくりだ。
夜だったし眠気もあるので適当に六時間寝て、朝ごはんを起きてる人たちにまじって食べて、ひと休みしてから、両親の部屋を探した。
このフェリー広すぎ。
治療の時に疲れ切ってはいけないと言われたので、休みながら探す。目的の部屋には確かに両親の名前がかかっていた。
『調査員 ソウヤ&ケイ・アマギ(夫妻)』
三度くらいプレートを見返して、一度深呼吸。やたら緊張してきた。そういえば事故から一度も顔を合わせてない。電話は元旦に少ししたけどもちろん事情を隠した状態で、まだベッドの上という設定でしゃべってたから、「事故られたけど大丈夫だよ」「そうなのしっかり治してね」くらいしか話せなかったっけ。
コンコンとノックをすると、意外と元気そうな母の声。今開けますという声の後に足音がして、扉が開く。
「あと、え、えっと、そのぅ」
頭が真っ白。母はなぜこんなところに娘がいるのか何の疑問もないのか、ごく普通に、でもないかな、とにかく部屋へ入れてくれた。
「誰かと思ったら、アオちゃんじゃないの。適当に、かけなさいな」
「アオちゃんていうの、もうやめてって何年も言ってるじゃん」
「可愛くて呼びやすくて、いいじゃない? ねぇパパ」
「うんうん、アオはいつだって可愛いぞ」
しばらく普通に親子の再会をしたあと、私や母にじゃれついていた父がすっと真顔になった。
「何か大事な話があるのだろう? 僕たちを見つけて会いに来たということは」
私は、遺跡のことと、ユイさんが言っていたルルイエとは何かを尋ねた。
遺跡の発見は、一〇年ほど前のことらしい。発見したときのメンバーではないから。細かい日付や記録は分からない。会社全体の秘密、だとかで見ることもできない。もともとは、そのあたりで断層やプレートもないのに一日に何回も地震が起きるということがあって、アトランティス本社が密かに調べることになった。それで潜ったら明らかな人工物が沢山見つかった。それがあの遺跡。
塔は、見つかったときばらばらになった状態だった。付着物が厚く堆積していて、何か建造物が崩れたようなということしか外観からは分からなかった。
そして、崩れた塔の中で、唱石が見つかった。あとは座学で習った通りの話。塔がさらに崩れそうになった時、そこにいたネイさんに石が入り込み、人々を守った。ただ、なぜ海底深くにネイさんがいたのかとか、そのあたりは怪しいから、実際のところはやっぱり会社の秘密を隠すためのストーリーを捏造してあるんだろうね。
次はルルイエ。元は、アメリカの作家ラヴクラフトが始めた架空の神話に出てくる、邪神の眠る場所の名前だそうだ。残念だけど私は知らない。その邪神サマの中でクトゥルフとかクトゥルーとかってよばれるヤツが有名らしいけど、やっぱり記憶にない。両親は知ってるらしく熱っぽく語ってくれたけど、とにかくまとめると、
「なんか知らないけど、近づいた人間を狂気に落とす邪神が棲む、とにかくヤバイ島」
でいいかな。そして、私がぼろぼろにされた間に、黒い子の歌のせいだろうけどそのルルイエの座標にほぼ一致するとこに、あの遺跡みたいに海底が隆起して島ができた。その島も、側を通った船に乗っている人がほぼ全員具合が悪くなってる。私が聞いた、雑音だらけの繋がらない通信の内容は島の隆起だったわけね。
その島は正式な名前ができるまで何か番号や記号で仮に呼ばれているんだけど、調査隊のなかでは場所と、具合が悪くなるところから「ルルイエ」「偽ルルイエ」「ルルイエ二号」と呼ばれている。
もちろん後で知ったんだけど、ネイさんは作品を読んではいないけど知識としてルルイエのことを知っていたし、先生もなんか怪しい態度に見えたから絶対知ってるよね……。
(作者注:リョウは中高生のころに中二病状態でむさぼるように読んだが隠し通している(知識として知っているようなそぶりで通している)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます