彼岸花、というと不吉なものを想像させられますが、この物語はその想像力がかき立てられる妖しい魅力に満ちています。
かつて、この地で起こった陰惨な昔話。
それを観光客に語り聞かせるという形でストーリーが進むのですが、語り部である民宿の主人の口調が優しげでいて淡々としていて、どこか不安を誘うものとなっております。
伝えられた昔話と語り部の見解、どちらが正しいのか。
どちらであろうと紅の花の美しさには変わりなく、しかしかき立てられた想像が、狂い咲く花々に潜む妖しさを際立たせます。
その光景を思い浮かべてしまった胸に、紅の残像を残すような作品です。
怖く、残酷だけども、美しい景色に鳥肌が立つ。
とっても、好きです。(突然の告白)
この話は、案内役の人が彼岸花にまつわる昔話をするものです。
語り手から紡がれる言葉は、どこからが真で、どこまでが実話なのかが、わかりません。きっと、当時の当事者のみが、知っているのでしょう。
ですが、語り継がれる、その彼岸花———死人花は美しく、奇妙で、悲しい……。
「生きる」ということは、「人の業」とは、その艶やかな「紅」の秘密とは———
彼岸花の下には、何が埋まっているのでせう。
是非、案内役に導かれ、彼岸花の景色に魅了されてください。
読み進めるごとに、辺り一面に赤が咲き乱れます。
民宿の主人が観光客に昔話を語り聞かせる物語です。
彼岸花の群生地、美しいその花畑には、陰惨な伝承が残っています。
物語は民宿の主人の語りで進められていきますが、彼はどことなく楽しそう。
確かに彼の言うとおり。
伝承というのは誰かが伝えてきたことです。
語られているということは全滅したなんて嘘――かもしれないし、ひょっとしたら、本当かもしれない。
あるいは昔話が嘘か真かはどうでもいいことかもしれなくて、この彼岸花たちは「今」何を養分にして咲いているのか、がこの美しい話をホラーたらしめているのかも、などと考えてみたりしました。
そう、ここは田舎。都会のひとが来るなんてそうそうないことです。
そんな当たり前の地方のひとコマに華を添えるは彼岸花。
美しく悲しく、それでもきっとどこかにある物語だと思いました。
ところで、この作品の美しい情景を想像した時、私の頭には松井冬子の絵が浮かんだのです。
ああいった幽玄の空気を感じたい方は、ぜひ。