きれいなきれいなあの花は何を糧に咲くのだろう

民宿の主人が観光客に昔話を語り聞かせる物語です。
彼岸花の群生地、美しいその花畑には、陰惨な伝承が残っています。
物語は民宿の主人の語りで進められていきますが、彼はどことなく楽しそう。
確かに彼の言うとおり。
伝承というのは誰かが伝えてきたことです。
語られているということは全滅したなんて嘘――かもしれないし、ひょっとしたら、本当かもしれない。
あるいは昔話が嘘か真かはどうでもいいことかもしれなくて、この彼岸花たちは「今」何を養分にして咲いているのか、がこの美しい話をホラーたらしめているのかも、などと考えてみたりしました。
そう、ここは田舎。都会のひとが来るなんてそうそうないことです。
そんな当たり前の地方のひとコマに華を添えるは彼岸花。
美しく悲しく、それでもきっとどこかにある物語だと思いました。

ところで、この作品の美しい情景を想像した時、私の頭には松井冬子の絵が浮かんだのです。
ああいった幽玄の空気を感じたい方は、ぜひ。

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