神の力を得てもなお、失わない「普通さ」

このお話は、面白い要素がたくさん絡み合っていて、一本で何度も美味しい物語です。

平凡な35歳のバツイチ男が、ひょんなことからギリシア神話の神々の力を得、時代を遡り、非業の死を遂げた歴史上の人物を救う、という、神話×歴史×ファンタジー。これだけで、十分面白いのです。神々との軽妙なやりとり、歴史上の人物についてのわかりやすく、しかし丁寧な説明。人選がとても興味深く、歴史通の人も、そうでない人も、楽しめると思います。

しかし、次第に、この物語の面白さは、結構渋いところにもある、と気付きました。
それは、物語の主人公駿介が、半神の力を得、世界規模の陰謀に関わっていくことになっても失わない、「良心」や「誠実さ」の部分です。

殺処分されていく動物を救いたいという思い、歴史上の人物と関わっていく中で抱く、「必要な犠牲なんてない」という歴史に対する信念、離婚した妻への複雑ながら、前向きな思いなど、「普通の人間」として共感できる部分の大きさに、この物語の深さを感じました。

非日常的な、日常へ。

幅広いジャンルのファンにお薦めできる作品です。

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