それらを知ろうとするきっかけは、たいてい痛い目を見たときだった。

 この物語はサイバーセキュリティーを題材にして募集されるコンテストという入り口から執筆されている。僕はIT業界のことについては門外漢ということもあり、この物語を読んで楽しめるかどうかが、初めは不安だった。

 読み進めるにつれてその不安が杞憂であったことにすぐ気がついた。話を楽しむ肝となるサイバーセキュリティーに関連する用語や、それらが何を目的に仕組まれて、何を成すから怖いのかを、本文では噛み砕いてわかりやすく説いている。

 この『何かが目的で仕掛けられた』ものからの解決を『わかりやすく説く』ことが、主人公たちの行動に沿っているため、読み進める楽しみも合わさり、とにかくストレスなく世界の空気に慣れることができました。

 話の起点から着地点にかけて、心惑えどもブレない書き方は、最終的に勝ちに行くファイターのそれに近いと感じます。さすが。

 セキュリティー問題にしろ、武術にしろ、それらをよくよく知ろうとするきっかけは、たいてい痛い目を見たときだったのを思い出しました。物語の内容になりますが、錬磨なキャラクターたちも最初は痛い目を見て今の姿になっていき、物語の中で各々が痛い目を見ながら解決策を模索、達成していく(いこうとする)流れは、そんな積み重ねを大事にする作者の姿勢がよく現われているのではないかと思いました。

 この物語の敷居は高くはありません。
 何かを為すために試行錯誤する戦う者たちの物語です。
 ジンジャーエールを友にしながらの一読をお勧めいたします!
 面白かった!

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