第15話

「……いるよ」

「マジか!まぁお前はいそう……」


 ふと煌也が言葉を止めた。

 私は深く俯いていた。煌也の方を見られなくて。


「……どうした?何かあるのか?」

「ううん」


 床を見つめたまま、首を横に振る。

 聞いてくれたのは煌也の優しさだと思う。でも、陽とのことを話すつもりはなかった。


「私がダメなんだ。……ねぇ、男の人って何されたら嬉しい?」


 私は顔を上げて煌也の目をじっと見た。

 煌也がぎくりとしたような表情になり、明後日の方角を向いた。


「さ、さぁな。彼女になら何されても嬉しいんじゃねぇの」

「……そうなのかな。喜んでくれてるのかな」

「あ?そんな最低な彼氏なのか?」

「っ陽を悪く言わないで……!!」


 思わず立ち上がって怒りをぶつけた。

 驚く煌也の顔が見えて冷静になり、ゆっくりと床に腰を下ろす。


 何やってるんだろう……。渚が陽の悪口を言わないからって、一度言われただけで我を忘れるなんて。


「ごめん」

「いや、俺も悪かった。お前の彼氏のこと全然知らねーのに」

「それは私が話してないからだから……。だけど、ごめん。あんまり、言いたくないの」


 だから聞かないで、と言外に含ませて言う。

 煌也は察してくれたようだ。


「そうか」


 独り言のように呟き――私の傍の床に座り込んだ。

 驚いて煌也を見るが、煌也は無反応。真っ直ぐ前を向いた状態で黙っている。


 言葉にしない優しさが温かくて、泣きそうになった。


 突然、私のではないスマホがずいっと視界に割り込んできた。


「話くらいなら聞いてやれる。連絡先交換しようぜ」


 煌也の顔はやっぱり前を向いていた。

 私は目前にある煌也の手に握られたスマホを見つめ、少し考えた後、自分のスマホを取り出した。


「ありがとう」


 すると、煌也は澄んだ焦げ茶の瞳で私を見て、「いーえ!」と笑った。






 これが陽への一つ目の隠し事だった。

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