Lie 2

第10話

 それからの毎日は、幸せでいっぱいだった。


 ――という訳ではなく。


「……で、……先輩が……」


 相も変わらず、私は陽のことで悩み、自己嫌悪に陥っていた。

 今日の授業はほとんど渚と被ってるから、空き時間が合って嬉しい。一人でいたら余計に色々考えてしまって辛くなるから……。


「……ゆ――みゆ!」


 鋭く名前を呼ばれて意識が現実に引き上げられる。

 目と鼻の先に渚の顔があって、ようやく私はお馴染みの休憩室で渚と雑談していたことを思い出した。


「大丈夫?私の話聞こえてた?」

「うん。ちゃんと聞いてたし、大丈夫」


 上手くなった作り笑顔で肯定する。

 渚は訝しげだったが、突然ぱっと表情が明るくなった。


「あっ、引き受けてくれるってこと!?」

「……?うん。何を?」

「やったぁー!!」


 渚が右手の拳を握りしめて喜びを表した。

 聞いていなかったことを隠すために嘘をついたのに、どうやら渚の頼み?を引き受けることに繋がってしまったらしい。


 何なんだろう……うっかり、確認するより先に頷いてしまったけど。


「こうしちゃいられないね!早速金重かねしげ先輩に教えないと!」


 有頂天な渚は、スマホを人差し指で高速スクロールしたかと思えば誰かに電話をかけた。

 なんとなく嫌な予感がしたが、今更私にはどうにもできないので、机の上に放置していた課題を片付けようとシャーペンを握った。

 しばらく無言が続く。


「もしもし!金重先輩ですか!?この前話した子、代理オッケーですってー!」


 渚がいきなり笑顔で喋った。恐らく電話が繋がったのだろう。

 私は静かに問いを解きながら、なんとなく渚が言った内容を頭の中で整理していた。


 この前話した子……は、私のことかな。何の話題で出てきたんだろう。


「はい、はい憶えてます!えっと二時からシフト入ってましたよね……そうです!初めてなので私も助っ人で行きます」


 シフト入って……え、その単語が使われるのは、私の知識だと一つしか……。


「もちろんです!みゆは頑張ってくれますよ、初バイト!」


 清々しい笑顔で渚は断言した。

 ……思った通り。バイトだったんだ……。



 渚には悪いけど、――私、無理だ。




「はい!ではまたー」


 笑顔を保ったまま別れの挨拶をして、渚がこちらに透き通った茶色い目を向ける。


「本当ありがとねみゆ!急にあやさんがバイト休まなきゃならなくなって困ってて……本当に助かった!」

「……ごめん。それ、なかったことにしてもらっていいかな」

「え」


 休憩室が水を打ったように静まった。

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