第8話
「釣り合わない?それなら、逆に貴女は俺と釣り合っているんですか?」
「あんな子よりは釣り合ってると思うわ」
「よくそんなに自信満々に言えますね。所詮貴女は
ピク、と華奈さんの眉が動いた。
余裕綽々だった表情は、徐々に困惑と苛立ちが混じり変わっていく。
「……だから別れなさいって言ってるじゃない。私の方があなたを満足させられる」
「ははっ。本気で言ってるんですか?」
「当たり前でしょう。どうして陽があんな子と長く付き合ってるのか分からないわ」
「なるほど。では、最後に聞きますが」
俺はおよそ一歩分距離を詰めて、華奈さんの耳元に口を寄せた。
「一度でも、俺が貴女にはっきり『好き』と言ったことがありましたか?」
足を下げ、ゆったりとした動きで顔を離す。
意味を理解した華奈さんは青白くなっていた。
「……なかった?でも、そんなこと」
「その通り。ないんですよ。しかも、男女の関係を持ったのも昨日からですよね。俺は貴女に思わせぶりなことは言っても、好きだとは言ったことありませんよ?」
ついくすくすと笑ってしまう。
既に勝負はついたようなものだったが、華奈さんは食い下がってきた。
「だ、だったらどうして私と浮気したの!?思わせぶりな態度も……っ、おかしいじゃない!?」
……そろそろ面倒になってきた。嫌いなんだよねえ、勘違い女は。
「別に誰でもよかったですよ。貴女じゃなくてもね。たまたま近くに貴女がいて、勝手に落ちてくれたってだけです」
俺は身を翻し、甘ったるい匂いが充満した部屋のドアを開けて、去り際に微笑した。
「それでは」
呆然と立ち尽くす華奈さんがおかしくて、俺はこっそり笑みを漏らしながらドアを閉めた。
◆◇◆
「ただいまー」
普段通りに帰宅の挨拶をする。しかし、美優からの返事はない。出迎えもない。
……泣いてるな。俺の予想だと、多分寝室あたりにいるだろう。
俺は一旦リビングで着替えを済ませ、寝室へ向かった。
予想はビンゴだった。電気のついていない寝室のベッドに彼女がうつ伏せで寝転んでいる。
顔だけは横を向いていたが、俺が寝室に入った瞬間布団に埋められてしまった。
可愛いな、と無意識に口元が緩む。
俺は美優の隣に座って、さらさらの長い黒髪を撫でた。
「美優。ごめんね。華奈さんっていうのは俺より二歳上の
聞こえただろうが、美優は無反応だった。
止められなかったので聞く気はあるのたと判断し、俺は弁明を続けた。
「そのうち好きになられてしまって……まあ、これだけが理由ってわけじゃないけど。浮気した」
――本当に、本当に僅か、美優が動揺した素振りを見せた。
そこで俺は撫でるのを止めて寝転び、すぐ側の華奢な体を優しく抱きしめて、おねだりをする子供のような声色で囁いた。
「許してくれる?」
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