第7話
俺は、生まれつき女性に好かれる才能があった。
だからではないが――美優と同棲を始めて一ヶ月、初めて「浮気」をした。
「陽……好きよ。陽は私のこと好き?」
「もちろん。じゃなきゃ今抱きしめてないよ」
「それもそうね」
最初の女性は、やたらと俺の気持ちを確かめたがった。
一時間程度ずつしか会っていなかったが、面倒になり三日で別れた。
次は高校時代のクラスメイト。待ち合わせ場所で待っていたら、驚くほど厚化粧な女性がやって来た。こんな顔だったかな、と内心首を傾げながら俺は彼女と歩き出した。
「矢取くん矢取くん、なんで急に会ってくれたの?いっつもあたしが会おうって誘っても断ってたのに」
「ん?それは……
「えぇ〜、ホント!?嬉しいけど、今までず〜っと断られてたからあたし、なんかびっくりっていうか〜……」
「本当だよ。決まってるだろ」
そう言うも彼女はなかなか納得せず、べたべたと腕や肩に触ってきて「え〜?」を繰り返し、終始猫なで声で話した。
こちらも面倒になって、その日以来連絡を取ることはなくなった。
その次は自分の話ばかりして、周囲が見えない女性。そのまた次は、仕草や行動は可愛いが計算してやっていることがバレバレな女性……など、様々な女性と浮気した。
そしてその度に、俺は気付くのだった。
「おかえり」
――美優がどれほどいい女性かを。
容姿が飛び抜けて優れているわけではないし、勉強も運動もあまり得意じゃない。
けれど美優は、相手が気付かないほど自然に気を遣えて、些細なことでも必ず最後まで聞いてくれて、陰で頑張る努力家だ。例えば、毎日美優は晩ご飯を作ってくれているが、元々料理は苦手だったらしい。しかし、俺の知らないところで懸命に練習を続け、今では特技だと笑う。
そういう面を、俺は美優以外の女性に見たことがない。美優よりいいと思える女性に出会ったことがない。
美優が一番で、俺にとって誰よりも大切な人。それを、浮気をすることで深く実感出来る。
だから俺は浮気をしていた。
でも――
「華奈さん?何してるんですか?」
まさか、シャワーを浴びて出てきたら華奈さんが俺のスマホで話しているなんて。
「あなたの彼女と話してたの。電話がかかってきたから」
同時に真逆の感情も芽生えていた。
……ひとまず、美優と話すか。
「……それはわざわざありがとうございます。代わってもらっていいですか?」
「ええ、どうぞ」
さも自分の物であるかのように差し出されたスマホを受け取り、俺は美優と会話を試みた。
「もしもし、美優?あのさ――」
と、俺は通話が切れていることを察した。あまりに静かすぎたからだ。
んー……美優、怒ったかな。
「すみません華奈さん、俺帰りますね」
「あの子のいる家に?さっき話したけど、全然子供じゃない。陽と釣り合わないわよあんな子。くだらない嫉妬で束縛される前に別れたら?」
帰り支度に取りかかる俺に腕を組んで言い放つ華奈さん。
……へえ?
俺は笑みを浮かべて華奈さんへ近付いた。
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