第14話

 ……え。


「あの、私まだ未成年なんですけど……。お酒飲めない」

「はっ!?未成年!?……嘘だろ!?」

「嘘じゃないよ。19歳です」


 渚と同い年、と言うと、煌也はようやく合点がいったらしい。それでもなお「見えねぇ……」なんて零している。


 何歳に見えてたんだろう。私って老けてるのかな。だったら早く改善しなきゃいけない。


 顎に手を当ててあれこれ考え込む。すると、煌也がわたわたと焦り出した。


「あっ、老けてるとかいう意味じゃねぇぞ!?その、大人っぽかったんだよ、上手とは比べ物にならねぇくらいに」


 大人っぽい?……本当かな。


 本当だったら、――すごく嬉しい。


「そっか。ありがとう」


 心の奥の何かが軽くなって、ふふっと軽やかな笑いが漏れた。

 煌也は僅かに面食らい、その後でニッと笑った。


 そこから私達の間には沈黙が流れ続けた。けれど、私は話題を探そうと思うことはなかった。




 ◇◆◇




「お邪魔します……」

「んなかしこまんなよ。家だと思って楽にしてくれ」

「それは難しいかも」


 煌也とは一応、今日が初対面なわけだし。まぁ、“一応”がつくくらいには仲良くなったと思うけど。


 私はリビングの床に座り、お茶を準備してくれている煌也を眺めた。なんだか現実じゃないみたいだった。

 程なくして、煌也が二人分のグラスを持って戻ってきた。そのうちの一つをお礼と共に受け取って私は言った。


「アパートなんだね。それも1Rワンルーム

「あ?男の一人暮らしなんかそんなもんだろ。広い部屋に住む必要ねぇし」


「男の一人暮らし」。

 私は少し考えて、聞いた。


「……煌也。確認なんだけど、彼女いる?」


 ぶほっと煌也が口内のお茶を吹いた。


「あぁあ、床が濡れた。ティッシュどこにある?使っていい?」

「げほっ、ごほ……っ、そ、そこにあるけど、なんでいきなりげほっ、彼女!?」

「あぁ、了解。早く拭こう」


 ティッシュを箱ごと掴んで床に置き、何枚か中身を引き出して床に広がったお茶を吸い取る。

 茶色く染まったティッシュをゴミ箱に捨てて戻ってくると、少し顔の赤い煌也が食い気味に言ってきた。


「っみ、美優!なんで俺の彼女の話になったんだ!?急に!」


 この動揺っぷりは多分いないな。悪いことを聞いてしまった。


 内心反省しつつ、私は口を動かした。


「いや、もし彼女がいるなら、夜にと二人でいることを先に言っとかないと誤解されるかなって。そうなったら申し訳ないから」

「あ、あーなるほどな!気遣いサンキュ!でもいねーから平気だ」

「そうなの」


 やっぱりいなかった。ごめん煌也。


「で、何飲む……って、お前未成年だったな。えーと……あ、お前は彼氏いるのか?」

「!」


 私が聞いたから逆を考えて聞いた、恐らく煌也はそれだけだっただろう。

 でも私は――普通でいるなんて出来なかった。


 最近、自分が本当に陽の『彼女』なのか、私は日増しに自信がなくなってきていたのだ。

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