非常に完成度の高いミステリーです。
また、刑務所を舞台としたお仕事小説としても楽しめます。作者様はもしや、中の人では(どっちの意味で?)と思ってしまうくらい、刑務所内の描写がリアルに感じられるのです。
登場人物たちの心理描写も丁寧で、謎解き以外の面白さも堪能できます。
主人公の鮎京は、受刑者に真摯に寄り添い更生に導こうとする刑務官。その信念のままに、彼は「すでに刑の確定した」猟奇的殺人事件を掘り起こすことを決意します。
同僚や昔の仲間を巻き込むことへの葛藤や罪悪感を抱えつつ、己の正義と信念に従い行動を起こしたのですが……
数々の謎、複雑な人間関係、受刑者の妻である美女への思い、上部からの妨害、時間との戦い。様々なものに翻弄されながら掘り出したのは、戦慄すべき真実でした。
しかしこの物語の醍醐味は、ここからです。真犯人との息詰まる攻防、地味で実直だった主人公のスリリングなカーアクション、仲間たちとのコンビネーションが、熱い!!(ちなみに筆者は、JとS推しです)
最後に主人公の大きな覚悟を知り、涙腺崩壊。(あゆきょおおおお!!)
そして、最終話。構成の見事さ美しさに、嗚咽しながら読み終えました。
最後まで読むと、ちょっと謎めいた説明文『その虜囚を虜囚たらしめた真の虜囚とは!?
』の意味がわかります。
真犯人にはゾッとさせられますが、楽しめること請け合いです!!
とにかくラストがすごかった。
えも言われぬ感動がありました。
これは正しい真実を求めた青年の成長物語であり、真実を捻じ曲げようとした犯罪者の物語です。
ミステリということもあってなかなかうまい紹介文にならないと思います。
ただこの物語を楽しむにあたって、どんなヒントもここに記したくないのです。
この作者さんの作品はいくつか読んでおりますが、どれも緻密な構成、細部まで構築されている世界観と、生き生きとしたキャラクターが大きな特徴だと思います。
この作品にもそれらが大いに発揮されており、冒頭からどっぷりと作品世界に溶けむことができると思います。
なかでもこの作品はミステリー要素が特に強く、またストーリーも二転三転と驚きの展開を迎え、結末まで華麗に予想を裏切っていきます。
今回の主役は刑務所の看守をしている鮎京くん。
若くて、仕事に対して熱心で誇りをもっています。
そんな彼の担当に凶悪な殺人事件を起こした犯人がいました。
しかしその犯人の振る舞いはあくまでおとなしく、礼儀正しく、とてもそんな事件を起こす人間には見えないのです。
……という冒頭から始まる物語は、いくつもの疑問と懐疑をはらみつつ、鮎京くんはいやおうなしに引き込まれていきます。
もうこれだけでも面白そうでしょう?
先が気になるでしょう?
そんな読者の心を引っ張りまわし、次々に謎と解答を開示し、物語の核心へとずるずると引きずり込んでゆくのです。
まさに作者の思うつぼなわけですが、そこがやっぱりうまいなぁと思うわけです。
確かな実力ある作者さんの仕掛ける極上のミステリーです。
ぜひ読んでみてください!
『天才とは緻密であること』という言葉を聞いたことがあります。
この作品を読み終わって、その言葉を思い出しました。
閉鎖的な刑務所という空間で、物語は巻き起こります。
鮎京(あゆきょう)さんという刑務官が主人公なのですが、彼がある猟奇的殺人事件に立ち向かうというストーリー。
二転三転する推理に、刑務官や警察官、医師たち関係者が翻弄され、ミステリーは進んで行きます。
物語の鍵となる、二人のユリカ。謎は謎を呼び、事件の概要が見え隠れする。
そして表れた、衝撃の真実とは……。
真実は思ってもいない方向へ動き、関係者の人生をも揺るがす時。。
立ち塞がる驚愕の真実に、その時私たちならどうする?
これは小説だからなんて笑ってたら、頭一つ超えた悪人にしてやられるかもしれませんよ。
刑務所の内部をここまで調べられて、重厚でありながら楽しめる人間ドラマを書き上げたこちらの作家さんに驚くばかりです。
鮎京さんや他のキャラクターたちの仕草や喋り方、それぞれに性格が滲み出ていて情が湧きました。引き込まれたという意味です。
徹夜覚悟の手に汗握る、本格推理小説。
ぜひ、皆様も圧巻の読書体験を!
数々の名作医療ミステリーを発表されている、作者さまの独自の世界観を堪能出来る作品です。
事件の真相を突き止めるための流れや過程がとても丁寧で、一度作品を拝見したら続きが読みたくなる不思議な魅力が伝わってくる作品です。刑務官が主人公となる作品ですが、出てくる人物たちはどれも個性的な方ばかりです。そのため刑務所というやや閉鎖的な世界が舞台となっていますが、重苦しい雰囲気などなく読めてしまう点も作者さまのスキルの賜物だと思います。
もちろん医療に関するエピソードも多数登場し、それらがすべて物語に上手く調和されています。謎を一つ解ければより濃厚な謎が待っている……という不思議なループに読者を誘いこんでくれる点も、単調な結末にしないという情熱と熱意を感じます。
また医療関係や刑務官・法律用語など多数登場しますが、そのすべてを丁寧かつ分かりやすく作中で説明してくれるので、予備知識も一切必要ありません。それでいてこれほど濃厚な世界観を堪能出来ることは、本当に素晴らしいと思います。
それもすべて入念な取材や下調べをなさっている作者さまの作品だからからこその、魅力の一つでもあります。一見すると当たり前のように思えますが、こうした読者への配慮こそ作品を書く上において最も大切なことです。そんな作者さまの気配りがあるからこそ、多くの読者の心をつかむことが出来るのはないでしょうか?
シャーロック・ホームズ・アガサ・クリスティーなどの名作ミステリーに匹敵する魅力を持つ『虜囚達と夜のユリシス』、ぜひご覧になってください!
一話目を読みました。即座に思いました。(これは完結まで走りたい)稀に、そういう感情を抱かせられる作品があるのですが、この作者さまの「ミックスベリー殺人事件」がそれでした。
様々な切り口から、ミスリードの糸どころか、あらゆるところから蜘蛛の糸のように伏線と外しが襲い掛かっていつしか蜘蛛の巣になっていきます。
今作も最高でした。ネタバレは防ぎますが、ミステリーは単調であると、ただ、謎解きの推理ものに徹してしまいます。
しかし、この作者さまの文法にかかると、様々な人間が、想定した行動をとり、それゆえに想定できないラストへと結びつくのです。
それは「幕間」なる別視点が挟まるので、そこで物語の復習をしつつ、駆け抜けるブーストになるからだと思っています。
行間が詰まっていますが、わたしは縦書きで一気に楽しめました。
医療ミステリーと刑事ものの組み合わせではなく、虜囚のエッセンスを絡め、蜘蛛の糸に閉じ込められて――
なぜ、このタイトルなのか。最後まで分かりません。最後の一行が胸に残る。
そこには幾人もの悩みや、思いやり、ラストへの伏線が感情と共にあります。
それでも、「ああ、そうだったんだ」とすとんと胸に落ちる。医療ミステリーの先人たちが歩んだものとまた違う、新感覚の医療ミステリーはカクヨムならではかもしれません。
次は貴方自身が感じてください。一冊の本を読み通した気分に浸れます。そして一気に読み終えて思います。
凄い物語だったなぁ……と。ありがとうございました。
女性を殺害した後に臓器を抜き取る、という猟奇殺人事件の犯人として刑務所に収監された青山。しかし、その素行は凶悪犯とはとても思えないほど良好だった。
刑務官の鮎京は疑問を抱き、青山が犯したという事件について調べ始める。
……という筋立ての、本格的なミステリー小説です。
読んでみると、洪水のように押し寄せる情報量に圧倒されます。
医療に関する知識、そして刑務所の制度にまつわる知識を総動員して作り上げられたかのような物語は精緻の一言。一文一文を噛みしめるたびに「取材が行き届いているな」と唸ります。
ミステリを読む醍醐味は真相が明らかになったときの衝撃と納得感だと思いますが、本作はそれをしっかりと味わわせてくれますね。
Webだけじゃ勿体ない。書籍で読みたいクオリティです。
カクヨムコンの初期から、数々の高評価を受けていらっしゃる作者様の最新作です。
そんな前評判もあり、この方の作品はいつか絶対に読もうと決めていました。
運よく、その機会を設けることができ、さあ読むぞと最初のページをめくったら――
ただただ圧倒されました。
まずは情報量。
入念に下調べされた刑務所の知識、そして作者様の持ち味である医療の知識。
これらが余すところなく配置され、作品全体のリアリティをとてつもなく底上げしてくれます。
これほど細部にこだわった作品ですから、おのずと重厚感が生まれ、大変読みごたえのあるものに仕上がっていました。
次に表現力。
豊富な語彙により綴られた文章は、硬質でありながら読みやすく、グイグイと作品の世界へと引き込んでくれます。
すべて読み終えてから文字数を確認して、20万文字を超えていたことに驚愕。
長さをまったく感じさせないほど、卓越した表現力でした。
そして濃密な心理描写。
登場人物の考え、迷い、怒り、嘆き、狂気……いずれもがダイレクトに伝わってきました。
この他、先を読ませない構成や複雑に入り組んだ人間関係、伏線などなど、挙げればキリがありません。
読みながら何度「凄い……」と呟いたことか。
内容は他の方が触れていらっしゃるので、私から敢えて語ることはしませんが、「とにかく読んで下さい、凄いから!」の一言に尽きます。
個人的には、本作がホラー・ミステリー部門の大賞候補。
願わくばライトノベルのレーベルではなく、一般文芸のハードカバーとして発刊して欲しい。
そう願わずにはいられない、珠玉の作品です。
パチリ、パチリと小気味良い音を立て、一部の隙間もなく美しい絵を完成させるジグソーパズル。
本作も、散りばめられた無数のピースが綺麗に繋ぎ合わされる過程を楽しみ、出来上がりの余韻に浸れる、そんな良質なミステリーです。
主人公の鮎京君は刑務官。准看護師の資格を取り、矯正医官(刑務所のお医者さん)であるぶっきらぼうな城野医師の助手を務めています。
そんな彼の勤務先である遠州刑務所に最近収容されてきた猟奇殺人犯の青山。彼の醸し出す雰囲気や言動があまりに犯罪者らしからぬことから、鮎京は彼に興味を抱きます。
彼が常用しているとある薬に引っかかりを覚えた城野医師、そして友人の警察官カップルを巻き込み、鮎京は彼の犯したという猟奇殺人の真相に迫ろうとします。
ところが、青山の妻である浜松一の人気キャバ嬢「ルリ」と接点を持ったことで、事件に関わりのありそうな重要人物が見つかったり、青山の病気に関わる謎がますます深まったりと、真相へ辿り着く道は混迷を極めていきます。
途中、「おい、鮎京っ!しっかりしろっ!」とつい怒鳴りたくなったりする場面があります(苦笑)
ぶっきらぼうだけれど出来る男である城野医師が、勘の良さと医療知識を生かして欠けたピースを探しそれを繋げていく様に惚れ惚れします。
事件の核心にいよいよ触れようという大事な時に、城野医師のアルファロメオを上手く運転できず、怒鳴られながら悪戦苦闘する鮎京君(苦笑)
※作風は硬質でシリアスです。
けれども、やはり本作の主役は鮎京君でなければいけない。
彼が最後の一ピースとならなければ、これほどまでに読者を魅了するラストは完成しない。
怒涛と圧巻のクライマックスを経てのこの余韻、あなたもぜひ堪能してみては。
ええっ! この物語は二十万文字を超えていたのか!
読了後に気づき、あらためて「読ませる」小説であることを再認識いたしました。
主人公の職業が刑務官という、一般市民にはあまり馴染みのないことにまず驚きます。ミステリーのジャンルでは、探偵や警察官が主役であることが圧倒的多数です。ではなぜ刑務官を主人公としたのか。そこがこの物語の真骨頂とも言えるべきところではないでしょうか。罪を犯し、服役する囚人と接するのは看守、つまり刑務官です。猟奇殺人で無期懲役を受けた青山。医務課に勤務する刑務官の鮎京はその青山に違和感を抱きます。ここからが前代未聞の事件が始まるのです。
作者の銀鏡さまのミステリー長編はすべて拝読しておりますが、今作は間違いなく最高傑作になるでしょう。
冒頭に書きましたように、二十万文字を超えるにも関わらずどんどん物語の中に引き込まれていくのです。その理由のひとつが、紹介文にありますように徹底的に調べられそれを血肉に変えて紡がれているからです。だからこそ、リアリティに溢れ、綻びがひと欠片もないのです。
面白い!
結論はこれです。もっと多くの方にご覧いただきたい傑作です。
そしてもうひとつだけ。タイトルの「虜囚達と夜のユリシス」に隠された秘密。
これはラストまでご覧になったときに、なるほど! と膝を叩かれることを請け合います。
カクヨムで年末年始にWeb小説コンテストが開催される都度、主にミステリジャンルで銀鏡怜尚氏が参加し、過去三度新作長編を発表なさっています(※第三回のみ既存作にて参加なさっていた模様です)。
今年も恒例の時期になり、同氏の長編ミステリが読めることを大変嬉しく思います。
さて、銀鏡氏の作品は、しばしば医療系の要素を盛り込み、社会問題に深く切り込んだ内容なのですが、この最新作も例に漏れません。さらに今作では、刑務所という特殊な舞台設定を用い、取り分け終盤に緊迫感溢れるドラマが待ち受けています。
硬質な筆致と伏線回収の巧みさは、重厚な物語を力強く支え、読み手の期待を決して裏切らないでしょう。
歯応えのある社会派ミステリがお好きな方は是非!
32話まで拝読させて頂いてのレビューです。
「ルウェーーーベルが違うんだよっ!!」
セルリアンブルーのマット上で、そう巻き舌で吠えていたのは某人気プロレスラーの悪徳マネージャーだったでしょうか。レベル? それともレーベル? いきなり意味不明な書き出しで申し訳ございません(汗)ですが、この作品の魅力並びに作者様の筆力を端的に言い表すと、正にこのひと言に尽きます。
舞台は刑務所。謎めいた猟奇的殺人事件。犯人に似つかわしくない優男の容疑者。その妻であるミステリアスな麗しき女性。男の好奇心をくすぐる展開。複雑に絡み合う人間模様。二転三転するどんでん返し。からの驚愕の真相などなど。それらが硬質でありながら理解しやすい文体で綴られています。
事件の謎を追うのは生真面目でウブな刑務官・鮎京と、一見チャラいが切れ者の常勤医・城野。登場人物も魅力的で、ホームズ・ワトソンスタイルのバディものとしても堪能できます。容疑者である「青山」をはじめ、各々の名前に込められた意味も見逃せないところです。
まさに王道の社会派推理。確かな医療知識と知性と筆致と、そして綿密なプロットによって綴られる魅惑の銀鏡ワールド。ラノベで異世界なネット小説という大海原のリングの上で、そのレベルを圧倒的に凌駕した至極の本格推理小説をとくとご覧あれ。
今回も見事だ。もはやラノベの域を超え、大衆小説と言えるだろう。長編なのに、ストレスなしに読み進められる、ハイクオリティ・本格医療ミステリーだ。
今回の舞台は刑務所。そこで服役している青山という男と、主人公が出会うところから物語は動き始める。青山には他の服役囚とは違った様子が見受けられた。いかにも、囚人らしくないのである。このことが気になった主人公は、青山の犯した罪を調べ始める。そこに登場し、協力してくるのが、個性豊かな面々だ。警察や同じ刑務所の医師たち、そしてこの作者様の読者ならきっと驚くアイツまで……。
青山が犯したとされるのは、ただの殺人ではなく、死体から臓器を取り出すという猟奇殺人だった。そして何の符号か、青山自身も臓器移植の手術痕があった。
そして、次の殺人事件が起こる!
青山の妻とその子供。警察。刑務所。そして病院。人間関係は複雑に絡まり合い、接触回数でその濃度は濃くなっていく。綿密な計画によって隠された本当の犯人とは? 今回は医療知識だけでなく、刑務所の知識、警察の知識まで網羅された作品となっており、読者を引き付けてやまない作品だと言える。
そしてこの作品をより楽しむために、この作者様の別の作品も是非、ご覧いただきたい。そうすれば、あの作品のあの彼の後日談としても読むことができるからだ。いつでも本格医療ミステリーなのだが、今回はさらに磨きがかかっている。
これを読まずに、今回のコンテストを終えるのはもったいない。
是非、ご一読ください。