女の甘美な声が残酷な世界に響き渡って耳にこびりついて離れない

この上なく美しい物語です。
豊富な語彙と繊細な言葉選びで積み上げられた世界観は鬱屈としていて、ロダンの地獄の門をほうふつとさせます。ひとを圧倒させるものがあります。
しかしただの雰囲気小説ではないのです。
みんな生きている。
ひどく残虐で、いびつで、みんな今にも一歩向こう側に踏み出そうとしているのに、ぎりぎりのところで人間であることを保っている。
この人たち、今までいったいどうやって生きてきたんだ?と思うほどゆがんでいるのに、確かに生きてきたんだな、というのも分かるんです。
生々しい生。それが綺麗な言葉に包まれてザクロの実のように爆ぜているのです。

主人公のダーシアはお兄ちゃんであるエルゼイアルが大好き。
――とだけ書くとなんだか微笑ましい兄妹の物語のようですが、二人の間には恋慕の情と肉欲が存在し、幼いながらもあさましく求め合います。
それが父親である王の目には獣のように汚らしく映ったようですが、二人の関係は何があってもけして揺らぎません。
ただ、周囲の策謀によって引き裂かれていく。
それでも私には永遠の愛が感じられるのですね。
なんだかんだ言ってダーシアはその愛を糧に生きていくのだろう。そんなたくましさを感じるのです。
周囲を固めるキャラクターもみんな魅力的です。常に何かやらかしてくれそうな気配を漂わせています。そして期待はけして裏切りません。

この甘美な世界に一人でも多くのひとに浸ってもらいたい……。

(現在第一部が完結したところです。次からの更新も楽しみに待たせていただきます!)

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