誰しもWeb小説で大好きな話というのはあるでしょうが、私はこのお話が特に大好きです!!(愛が重い)
全てにおいて完璧な嫡出の兄・エルゼイアルと、全てにおいて不出来な庶出の妹・ダーシア。母が違うせいで普段は顔をあわせることもなく、接点もないはずの二人。しかし、二人は昼過ぎに王宮の庭園で逢瀬を重ねるという特殊な関係にありました——。
異母兄妹の禁忌の愛の話なのですが、「どうして禁忌に至ったか」の説得力が凄まじいのが好きなところ。
エルゼイアルは美貌も才能も聡明さも頑健な肉体も全て所有していましたが、一つ、魂を崩壊させてしまいかねないほどの傷を抱えていました。それは誰にも気づかれなかったり、気づいても癒しようが無く、ただ、無垢で純粋な異母妹のダーシアだけが彼の心の傷に寄り添い、痛みを忘れさせることができました。
ダーシアは生きていることが地獄でした。この世に生まれ落ちた瞬間から存在を疎まれ、何をやっても母から暴行を受け、周囲から存在を否定される日々。そんな彼女を初めて受け入れて、存在を気にかけてくれた光は異母兄のエルゼイアルでした。
最初はいわゆる「家庭に居場所がない」兄妹が庭園でおしゃべりして人生の休息を取っているだけだったのですが、次第にその関係は二人の成長とともに、兄妹愛から、気づけば男女の情愛に変化していました。
しかし、そんな二人のつかの間の幸せは決して許されるものでは無く、二人は引き裂かれ、すべての歯車が狂うなかで成長した末、生存すら否定されて闇を生きていたダーシアは、今を時めく国王として王国に燦然と輝いていたエルゼイアルの前に罪人として引き出されることになります……。
幸せになったら社会規範や倫理観が破綻するけれど、どうしても結ばれて幸福になってほしい二人。でも……。
壮麗で重厚な文体も魅力の一つです。成長して美貌の女性になったダーシアの美貌の描かれ方や、ダーシアとエルゼイアルの逢瀬のシーンの美しさはうっとりします!
だけれど、本当にダーシアは咎められるべきなのか、エルゼイアルこそ咎められるべきではないのか……見届けてください! 私とはまりましょう……!
ゆっくりと読み進めておりましたが、気が付けば飲み込まれ、怒涛の展開に翻弄されて一気に読み終えてしまいました。
物語の主軸となるのは、兄・エルゼイアルと妹・ダーシアの禁忌の愛。
罪深い愛欲に溺れ、互いを求め合い続けた二人は、しかし血の繋がりがあるという理由ではなく、彼らの背後で渦巻く様々な陰謀に巻き込まれて引き裂かれ、そしてそれぞれが重い業苦を背負うことに。
罪と罪、喪失と喪失。
同じ咎を持つ二人が抱き合えば、またその体温に傷付けられてを繰り返す、甘やかだからこそ痛み際立つ愛憎が濃密に描かれています。
二人が行き着く先は、深く穿ち抉れた奥の奥――愛を囁くことも許されぬ、いばらに満ちた楽園です。
『あにうえ』
甘く囁くダーシアのこの声が、暫く耳から離れそうにありません。
ルオーゼ王国・第三代国王グィドバールには、世嗣ぎの王子エルゼイアルの他に、双子の庶子がいた。母タリーヒ譲りの美しい黒髪をもつ王女ダーシアは、父にも母にも顧みられない孤独な少女だったが、王宮の庭で美しい異母兄エルゼイアルに出逢い、人生が一変する。
「愛しています、あにうえ……。」
閉じられた世界のなかで、血染の絹に黄金の糸と薔薇の花弁をもって刺繍されたような、退廃的で豪華絢爛な物語ーー。
登場人物たちの置かれた状況が、どれも閉塞的で救いがなく、むきだしの感情に窒息しそうになります(褒めています)。怒りも憎しみも、愛も欲望も、嫉妬も憐れみも……どれもが繊細に刺繍された金糸の文字のような言葉で綴られていて、読者を酔わせてくれます。禁忌と鬱屈と暴力に翻弄されてなお、ひとりの人を愛し尽くそうとするダーシアの心を、美しいと思いました。
この上なく美しい物語です。
豊富な語彙と繊細な言葉選びで積み上げられた世界観は鬱屈としていて、ロダンの地獄の門をほうふつとさせます。ひとを圧倒させるものがあります。
しかしただの雰囲気小説ではないのです。
みんな生きている。
ひどく残虐で、いびつで、みんな今にも一歩向こう側に踏み出そうとしているのに、ぎりぎりのところで人間であることを保っている。
この人たち、今までいったいどうやって生きてきたんだ?と思うほどゆがんでいるのに、確かに生きてきたんだな、というのも分かるんです。
生々しい生。それが綺麗な言葉に包まれてザクロの実のように爆ぜているのです。
主人公のダーシアはお兄ちゃんであるエルゼイアルが大好き。
――とだけ書くとなんだか微笑ましい兄妹の物語のようですが、二人の間には恋慕の情と肉欲が存在し、幼いながらもあさましく求め合います。
それが父親である王の目には獣のように汚らしく映ったようですが、二人の関係は何があってもけして揺らぎません。
ただ、周囲の策謀によって引き裂かれていく。
それでも私には永遠の愛が感じられるのですね。
なんだかんだ言ってダーシアはその愛を糧に生きていくのだろう。そんなたくましさを感じるのです。
周囲を固めるキャラクターもみんな魅力的です。常に何かやらかしてくれそうな気配を漂わせています。そして期待はけして裏切りません。
この甘美な世界に一人でも多くのひとに浸ってもらいたい……。
(現在第一部が完結したところです。次からの更新も楽しみに待たせていただきます!)