刃として生きる青年と、鋼の意思を持つ少女。二人が作り出すは、どんな世か

これは、ある国の戦いの記録。しかしそれはまた、一人の青年と一人の少女を軸に描かれた理想の国を、社会を作るための戦いの記憶でもある。

孤児として生まれ、何か大きな自分以外の意思に従って命を受けるままに人を殺めてきた青年「ニル」。

彼が、仕事の中で出会ったのは、数奇な運命をもつ少女「フィン」。
争う二つの国を繋ぐ子として生を受け、精霊を祭るために生きるはずだった少女。
しかし、彼女は自らの意思で「龍の旗」を立て、自らの理想を具現することに人生を賭していく。その傍らには「ニル」の姿があった。



この作品の魅力は、なんといっても国同志の争いや内戦という壮大なものを扱っていながら、その目線は主人公であるニルを通しているため、歴史がうねりをあげて動いていく瞬間を追体験できることにあるのではないだろうか。テンポのよい語り口は、雨音、息づかい、花の香りまで、まるでその場にいるかのように読者に迫ってくる。

かと思えば、この作品は後世の学者がかつての歴史を文献をとおして検証しているという体裁をとっているため、時に時間を超えた極めて客観的な視点も与えてくれる。

その二つの視点によって上からも下からも立体的に歴史の変化を追っていく、なんとも面白い読書経験ができる本作。

貴方も体験してみてはいかがだろう。

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