ひと、という存在に関する問いかけ

近未来SFですが、ほぼ現在の私たちを取り巻く日常に潜む問題をついた作品と思います。

人工音声(実は、録音された個人の声を編集したもの)で、私が真っ先に思い浮かべたのは、世界的に有名な理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士です。博士が筋萎縮性側索硬化症(ALS)によって言語を失った際、友人が人工音声発生装置を発明、提供しました。当時は画期的な発明でしたが、博士ご本人は「僕はイギリス人なのに、友人はアメリカ人なので、この機械はアメリカ訛りで喋るんだよ。そこだけは不満かな」と、冗談で仰っていました。
今、私たちは、その声で博士の講演を聴いています。博士の本来の声を知る術はありません。

病院の会計機械は、美しい女声で話してくれます。ある声優さんの声が、全国に普及しました。カーナビもいろんな声で話してくれますね。往年のアニメヒーローの声優さんだと漲ります。

でも、こうした『声』の商業利用に、あるべき制限が加えられていなかったら?

この作品は、ひと組の夫婦の不幸を通じて、そんな「有り得る恐怖」をみせてくれます。同時に、人の人格や尊厳とは何なのか……を、考えさせられました。

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