二重装甲ダブルエス

多田七究

第一章 タンデム

襲来! 謎の敵

 光のたまが発射され、飛んでいく。

 たまを撃ち出そうとしていた四角いメカに直撃。ちいさな音とともに爆発した。

「うしろ」

「助かるぜ」

 言いながら、後ろを向く操作中の少年。

 向きを伝えた少年は、すでに武器の安全装置あんぜんそうちを解除している。

 メカが空を飛んでいた。一瞬で狙いを定めて、攻撃。

 武骨ぶこつな巨大ロボットを手足のようにあやつる、十代半ばの少年二人。迷いはない。

 あっさりと敵集団を撃破した。


 複座ふくざから降りる二人の少年。

「面白いけどさ、デザインがイマイチだな」

「確かに。でも、こういうの好きでしょ、ライゾウ」

「キヨカズは、なんでもお見通しだな。これも、よく見つけたもんだ」

 短めの髪の少年が見つめるのは、アーケードゲームの筐体きょうたい

 名前は、タンデム。

 1回のプレイ金額が、ほかのゲームよりもはるかに安い。だが、人気は今ひとつ。

「前はなかったから、たぶん最近――」

 普通の髪の少年がそこまで言ったとき、二人の前に誰かがやってきた。

「その才能、かしてみない?」

「なんだよ」

「実は、ゲームで適性てきせいを調べていたの。敵が迫っているのよ」

「……」

 外ハネヘアの少女は、柔らかな表情で話し続ける。服装はどう見ても普段着だ。

「敵は、島の地下にあるものを狙っているの!」


「僕たち、そういうの間に合ってます」

「聞くだけ聞かないのか?」

 キヨカズとライゾウは、ゲームセンターから出ていく。春の陽気の中、雑談しながら。

 日は高い。二人はすでに食事を済ませていた。

「地下にあるのは、爆弾ばくだんのようなもので、敵に渡したら、町がなくなっちゃうのよ」

「ああ。月島つきしまにねえ。っておい! なんで放置してたんだよ」

 追いかけてきた少女に詰め寄る、体つきのいい少年。

 ここは、海岸沿いにある三日月町みかづきちょう

 西の沖にある島を、地元の人は月島つきしまと呼ぶ。正式名称は十六夜島いざよいとう

 橋はかかっていない。

「どういうものか分かったのは、最近のことだから、仕方ないでしょ」

「ほかを当たってください」

「俺より頑固がんこなんだよ、こいつ」


 歩いている二人とうしろの一人は、同時に大きな音を聞いた。

 海で、何かが爆発した。

 約2キロメートル離れている島のほうでも、爆発らしきものが見える。

 よく見える理由は、背の高い建物がないため。

 町の人口はさほど多くない。のんびりしたままの、周りの人々。騒ぐのは鳥だけ。

 世界は平和で、形骸化けいがいかした軍には頼れない。

「ほかに、いないんだな?」

「やれるなら、わたしがやってるわよ」

 悔しそうな少女に対し、少年は柔らかな表情になった。笑みを浮かべる。

「わかった。やるぜ。俺、ライゾウ」

「命がかかってるのに?」

「ほかの人にできないんだから、逃げても、町ごとドカンだろ」

「こうなったら、止めても無駄だろうし。誘った僕だけ逃げるのも、なしだ」

 二人の話がまとまった。嬉しそうな顔になる、十代半ばの少女。

「わたしはスミコ。よろしく」

「キヨカズです。そんなことより先を急ごう」

 街路樹がいろじゅが立ち並ぶ歩道を、三人は走り始めた。


 スカートを揺らすスミコを先頭に、ライゾウとキヨカズは港へむかう。

 徒歩。つまり目的地はちかい。

 自動車じどうしゃを走らせるには、許可が必要。しかも高価。

 人々のおもな移動手段は列車だ。クモの巣のように、線路が各地へのびている。

 ただよう潮風と、混じりあう鉄のにおい。足を止めた三人は、倉庫の中に入った。

博士はかせ! お待たせ」

 スミコが声をかけた相手は、小柄こがらな少女だった。ほかに人は見当たらない。

 照明をあびて、白衣とボサボサの銀髪がまぶしい。

「町を守りたいという、意志いしの力が必要じゃ」

 開口一番かいこういちばんに断言する博士。

 キヨカズは戸惑っている。

(いきなり精神論か。信じても大丈夫なのかな)

意志いしの強さなら誰にも負けないぜ!」

 ライゾウは叫んだ。

「よく言った少年。わしはネネじゃ」

「見てのとおり、博士は形から入るタイプなのよ」

 自己紹介する少年たちを、巨大な金属のかたまりが見守っていた。


 左のひざをついた灰色のロボット。

 しゃがんだ姿勢で、静かにたたずんでいる。脚だけでも人の背を超える大きさ。

 角張った部分が多く、お世辞せじにもセンスがいいとは言えない。

「もうちょっと、格好良くできなかったのか?」

「ロマンを搭載すると、装甲そうこうが薄くなって、可動部分の摩耗まもうが激しくなり、さらに――」

「今の、なしでお願いします」

 ネネの言葉を遮って、キヨカズが頼んだ。


 いよいよ巨大ロボットに乗り込むことになる。

 ライゾウが口を開く。

「その前に、名前は?」

型番かたばんは、ティーワンシックスジーアールツー」

「長い」

「開発時のコードネームは、何ですか?」

「その名は、グレータンデム」

「いいから早く乗ってよ」

 スミコは、二人を胸部のコックピットに押し込んだ。

 倉庫の天井が開き、ロボットが立ち上がる。

 頭の、目に相当する部分が光った。


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