不運と、幸運

 島の地下。

 格納庫かくのうこではなく、修理専用の部屋。

 ほとんどの武装ぶそうが壊れ、装甲そうこうの傷ついた巨大ロボットが横たわっていた。

 グレータンデムは大幅な改修かいしゅうが必要。

「しばらくかかる。というより、ほぼ作り直しじゃ」

 ボサボサ頭で銀髪の少女は、なぜか、すこし嬉しそうに言った。

 普通の髪の少年は、何も言わない。

「イチノメのパーツは、流用できないのか?」

 体つきのいい少年が聞いた。

「無理じゃ。見て分かるとおり、構造が違う」

「あれは修理も難しいですよ。博士はかせ

 ヘルメット姿の年配男性ねんぱいだんせいが付け加えた。


 ブルータンデムも修理が必要。

 こちらのほうが損傷はすくない。とはいえ、両腕が使えない。

 格納庫かくのうこに立っていた。

 大勢おおぜいの人が見つめている。

「ごめん。俺が、しっかりしてれば」

「無事でよかった」

 スミコの言葉を聞いても、ライゾウの表情は晴れなかった。


 会議室に、緑の服を着た少女がいる。

「さっさとやってよ。ひとおもいに、さあ」

 監視カメラを見つけて、ぶつぶつ言っていた。

 同い年くらいの少年少女、四人が部屋に入ってくる。

 そのあとに、アカもやってきた。

「何を言っている。ミドリ」

「その声、なんでここに? ひょっとして、もう天国?」

 全員が席に着くと、顔から力が抜けた。

 突然、べらべらと話し始めるミドリ。

「あたし、運悪くて、もうダメだーって思ってた」

 運の悪さを延々と語る。

 怪訝けげんな表情を隠さないキヨカズは、息をいて頭をかいた。

「アースって組織そしきに、目をつけられるしさあ」

 ライゾウたちは黙ったまま。

「世界なんてどうでもいいから、あたしが、なにかを決めたかった」

「そんなことより、生きてるんだから、きっちり働いてもらうわ」

 真顔で言い切ったスミコ。

「命が助かって、運が良かったな」

 短めの髪の少年は、心からの笑顔を向けた。


「それにしても、敵が攻めてこない」

 キヨカズが口を開いた。

 すこし明るくなった表情のミドリが言う。

「クロは、戦闘狂せんとうきょうだから」

「そいつが、指示を出しているのか」

 緑の服の少女から話を聞いたライゾウたち。格納庫かくのうこに移動した。

 みんなで、床にある腕のパーツを眺めている。

 黙々と作業をこなすアカ。負けじと声をかけ合う、大勢おおぜいの整備班。

「ダメ。あたし、機械はサッパリ」

 ミドリは機械いじりが苦手で、やることを見いだせない。

「もう昼だよ。町に戻ろう」

「オレも賛成」

 タカシとミツルが言って、ライゾウとキヨカズも同意した。

 緑の服の少女も、同行する。


 島の地上に人はいない。

 地下には食堂がある。しかし、誰も行こうとしなかった。

 十代半ばで自由に使えるお金が少ないから、ではない。

 町へ向かう、地下の列車の中。

 座席に座るそれぞれが、戦いのことを考えていた。

 いや、一人だけ考えていない人物がいる。

 ミドリは四人を見ていた。

 誰も、少女を見ていなかった。


 海の近く。スラブ用の地下通路から出る五人。

 そこへ、フォーマルな服装の少年が通りかかった。

「可愛い方ですね。誰かの彼女ですか?」

 トミイチは、さらりと聞いた。やさしい海風が髪をなでる。

「なんだよ、それ」

「いや」

「違うよ」

「そんなわけ、ないだろ」

 すぐに、男子全員が否定した。

「運、よくなってきたかも、あたし!」

 ミドリは感激していた。

 音を立てるドア。フユとメバエとホノカが、地下通路から出てくる。

「みなさん、お出かけですか。顔だけでも見られて、よかった」

「一緒に遊びたかったぜ」

 すぐにさっしたライゾウがぼやいた。続けて言う。

操縦そうじゅうのコツ、教えてくれよ」

「強い思い、ですよ。それでは」

 去っていくトミイチ。

 街路樹がいろじゅに姿が隠れたあとも、ミドリは手を振っていた。


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