秀麗! ブルータンデム

「二人は、あんまり成績が良くなかったけど」

 辛辣しんらつなスミコの発言に、タカシとミツルは負けなかった。

 その様子を見て、おさげのフユも手をあげる。

「なにか、できることをしたい」

 お互いの顔を見て、うなずく二人。

 メバエとホノカも続いた。

「よし! みんなで出発じゃ」

「いこうか」

 全員が、立ち上がらなかった。一人だけ座っている。

 普段着にもかかわらず、フォーマルに見えるトミイチ。

 そんな彼に、優しい声が届く。

「一番の期待の星なんだ。一緒にいこうぜ」


 地下トンネルを列車で移動する一行。

 和やかに話をしていると、すぐに島の地下へ到着。

 まずは、格納庫を見学。全長、約10メートルのロボットを見る。

 タカシとミツルは、感激していた。

「2機目、もう動くのか?」

最終調整さいしゅうちょうせいが終わればね」

 ブルータンデムの完成まで、秒読み段階。

装甲そうこうが、若干違うけど」

「見た目にうるさいから、こだわったのじゃ」

 しなやかな雰囲気。グレータンデムよりは武骨ぶこつさが和らいでいた。

 フユが手を振り、気付いた兄が笑顔を返す。

 そのとき、レーダーが敵をとらえた。


「適性が高かったから、やってみて」

 外ハネヘアの少女がさらりと言った。

「私ですか? 分かりました」

 長めの髪の少年は、一瞬戸惑いっしゅんとまどいを見せたものの、了承りょうしょうした。

 グレータンデムは整備中。

 トミイチとキヨカズが、ブルータンデムに乗り込むことになった。

 足場を上がり、説明を受け、コックピットに入っていく。

 それをながめる二人の少年。タカシとミツルは意気消沈いきしょうちんしている。

 ライゾウにはげまされ、みんなで指令室しれいしつへと向かう。


 三人の少女はオペレーターを任される。

 索敵担当さくてきたんとうのフユ。メカ担当のメバエ。状況分析担当じょうきょうぶんせきたんとうのホノカ。

 慣れていないため、たどたどしい。

 うつされる地上の映像を見ていた。

 大型エレベーターで地上へ出た、あわい青色の巨大ロボット。

「さすがに、ゲームとは違いますね」

 言葉とは裏腹に、ブルータンデムの動きに迷いはない。

 全面ディスプレイ越しに標的をとらえ続ける、するどい眼差し。

 トミイチは、あっさりと箱型のメカを撃破していく。

 武装を使用可能にするだけのキヨカズ。敵にたまが当たり、光をまき散らす。

「僕が狙う必要なさそう」

 そのとき、レーダーにさらなる反応が。通信で伝えられる。

月島つきしまの北から、何かが接近中。すごい速さで』

 緑のロボットが現れた。


「四天王かよ! こんなときに」

 いてもたってもいられないライゾウ。拳を握り、席を立つ。

 整備中のグレータンデムは、出撃できない。

 赤よりも装甲そうこうが厚い、緑のロボットから通信が入る。

『イチノメは、弱いから切り捨てられたの』

 誰も何も言わなかった。

 スミコとネネは、通信の許可を出さない。

 キヨカズも何も言わず、考えていた。

 口ぶりから、アカが生きていることを知らない様子の相手。

『これは、ニノテっていうの。あたし、ミドリ』

 さらに何か言おうとしていた相手に、あわい青色の機体が迫る。

 射撃をさけ、一気に間合いを詰めていく。


 緑のニノテは、遠距離武器えんきょりぶきが多い。

 ブルータンデムはふところに飛び込み、翻弄ほんろうした。

 攻撃はしなかった。

 いや、キヨカズが安全装置あんぜんそうちを解除していないため、できなかった。

 それを、相手は知る由もない。

 手も足も出ないミドリ。

 捨て台詞もなく、あっさりと撤退てったいした。


「パイロット交代でいいかも」

 指令室しれいしつ。スミコの表情はゆるんでいた。

 ライゾウが何か言いたそうにしている。二人の距離は近い。

 そこに、トミイチとキヨカズがやってきた。

「忙しいので、頼られても困りますよ」

 本当に困った顔をしているトミイチ。

 タカシとミツルは、やる気になっていた。

 みんな、楽しそうに話している。

 それを尻目に、トミイチは、すこしさびしそうに去っていく。


 それぞれが、やるべきことに向き合う。

「俺は、まだまだだって分かった」

めずらしいね。そんな台詞せりふ

「言ってくれるな、キヨカズ」

「でも、僕もライゾウと同じ」

「ん?」

「まだまだってこと」


「どう? ネネ」

「まだまだじゃな」

「二人のときは、普通に話してよ」

「研究のときはこれが普通じゃ」

「じゃあ、研究終わり」

「スミコは相変わらずじゃな」


 5年前。深い森の中。

 ちいさな人影が、木の根がからまった白い巨体に近付いていく。

 胸の奥へと手をのばす。

 目が光ったことを、乗り込んだ人物が知ることはできなかった。


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