桜花の、睦月学園

 光るけんが消える。

 グレータンデムは、腰に武器をしまった。

 爆発が収まり、敵のメカは原形をとどめていない。

「やけにあっさりしている」

『確かに。攻めるなら今』

 キヨカズの言葉に、通信で同意するスミコ。

 敵の反応はない。増援ぞうえんの気配もない。

『オペレーターもいないのに、よく撃退げきたいできたわ。えらい』

『データ収集が目的、か』

 ネネの推測を、ライゾウは聞いていなかった。

「勝ったんだ。考えるのは、あとにしようぜ」

『送った座標ざひょうに向かうのじゃ』

 巨大ロボットは、すこし背が高い建物を目指した。

 壁が開いて現れる、巨大なエレベーター。

 その上に乗る。壁が閉まり、地下へと降りていく。

 二人は、ただ座っていた。台がすべるように動き、格納庫かくのうこへ着く。

 搭乗口とうじょうぐちの近くに、スミコとネネの姿があった。


「きれいに使ってくれたな。整備せいびが楽そうだ」

 コックピットから出た二人は、声をかけられた。

 年配男性ねんぱいだんせいはヘルメット姿。作業着のよごれに気付き、顔のシワを深める。

「お仕事、おつかれさまです!」

「お疲れさまです」

 ライゾウが元気よく言って、キヨカズはつられて挨拶あいさつした。

 金属でおおわれ、港の倉庫より広い部屋からは、かすかに油のにおいがただよう。

 格納庫かくのうこの床から、約5メートル。コックピットまで続く専用の通路。

 手すりつきの道を、外ハネヘアの少女が近付いてくる。

指令室しれいしつで話しましょう」

博士はかせも行ってください。ここは大丈夫です」

 年配男性ねんぱいだんせいに言われて振り向く、小柄こがらな人物。ボサボサ頭の少女は、銀髪を揺らした。

 四人が通路を歩いていく。一直線に壁際の入り口を抜け、その先の廊下へと。


 スミコたちの組織そしきの名前は、スラブ。

 説明好きのネネによると、表向きはロボット技術の会社。

 島の地上にダミーの建物をたくさん用意して、地下に本部がある。

 スラブの人間は、地下のトンネルを使って町へ移動できる。

 さいきん、地下に危険物があると分かった。現代の科学では分解できない。

 指令室しれいしつで説明を聞くのは、二人の少年。

 スミコは指令席しれいせきに座っている。

 ネネを含めた三人は、並ぶ机を背にしてスミコのほうを向いている。

「今回は緊急事態だったけど、次からは地下のトンネルを使ってね」

情報端末じょうほうたんまつに、データを入れておいた。使うのじゃ」

 ネネは小さなてのひらを上に向け、手を伸ばした。

 素直に受け取ったライゾウと違って、キヨカズは考えている。

「もう、正式パイロットで登録したから。早くしてよ」

「分かった。でも、ほかのパイロットも探してほしい」

 キヨカズは情報端末じょうほうたんまつを受け取った。


 桜の花びらが舞う。

 あれから数日が経過している。敵は現れなかった。

 睦月学園むつきがくえんの入学式。

 遅刻しそうになったライゾウは、見知った顔を見る。

「同じクラスになるように、手を回したのか?」

 制服姿のキヨカズは何も言わなかった。

「なんのこと?」

「わしは知らん」

 二人の少女は、微妙に違う反応を見せた。

 ちらりとスミコを見たあと、キヨカズが小柄こがらな少女に言う。

博士はかせだから、飛び級してるのかと思った」

「苦手分野があるのじゃ」

 あっさり告白したネネ。

 体育館に入った生徒たちが、椅子に座る。

 理事長や学校関係者からの言葉は、短いものだった。


 入学式が終わった。

 体育館から出てきた生徒たちは、それぞれの教室へ向かう。

「担任のナカバです。よろしくお願いします」

 席についた生徒たちに向けて、若い男性が言った。

 木製品に囲まれて、ブレザーを着た生徒たちの自己紹介が始まる。

「タカシです。よろしく」

 短髪の少年は、ぶっきらぼうである。

「トミイチといいます。よろしくお願いします」

 長めの髪の少年が、丁寧ていねいに言った。髪は肩に届いていない。

「オレはミツル。よろしく」

 坊主頭の少年は、照れているようだ。

 ほかの生徒たちも、名前を告げていく。

「フユです。よろしくね」

 おさげで癖のある髪の少女は、笑顔。すこし痩せている。

「ホノカっていうの。みんな元気?」

 内巻きの髪型の少女は、のんびりと言った。

「メバエです。よろしく」

 ミドルヘアの少女は、てきぱきしていた。メガネをかけている。


 授業はなかった。

 連絡事項が伝えられる。

「みなさん、羽目はめを外しすぎないように、お願いします」

 先生が言った。

 しかし、柔らかな物腰であまり存在感がない。

 すぐに騒がしくなった教室。

 ライゾウも、右隣の席のキヨカズと雑談を始める。

 左隣の席にはスミコが座っている。

 スミコの左隣の席にいるネネは、眠そうだった。

 荷物を片手に、生徒たちが帰っていく。


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