名鏡! ヨンノヤミ

「クロを倒して、ボスを引きずり出す!」

 コックピットを踏みしめ、ライゾウは気合いを入れた。

 丸みを帯びた巨大ロボットの目が光る。

 一回り小さい上に軽量化されていて、黒いロボットは素早い。

 防御力を捨て、スラスターの性能を極限まで上げた狂気きょうきの機体。

 キヨカズが提案する。

「シーイーキャノンを使おう」

「ビームキャノン!」

 い灰色のロボットの左腕が、これまでとは違う変形をした。

 そして、何も起こらない。

「ん?」

「エネルギーのチャージ?」

 キヨカズの言葉のあとに発射されたのは、目で追えない何か。

 島の地上にぽつぽつとある建物。それをかすめ、一部が溶けた。

『これは、ビームじゃ』

『どうなってるのよ』

 冷静なネネとは対照的に、スミコは戸惑っていた。

 ダブルエスが動きを止めた。赤い関節。装甲の一部が青。飾りは金色。

 黒いロボットも止まっている。

「昔の機能を、すこしずつ取り戻している?」

「ビームは嬉しいけど、これは」

 直撃すれば、相手は無事ではすまない。続けてぼやくライゾウ。

「シーイーは言いにくいんだけどな」

 目を光らせ、黒い機体がふたたび動き出す。


 ライゾウが、敵に通信を試みる。

武装ぶそうを使わず、格闘で相手してやる」

『おれと、ヨンノヤミの得意分野だ』

 クロもそれを望んでいた。

 キヨカズは沈黙を返す。

 素早い動きのヨンノヤミと、ダブルエス。

 コックピットは重力制御のおかげで揺れない。

「こっちのほうが、性能は上のはずなのに」

「速い。当たらないぞ!」

『ピーキーに改造したからな!』

 巨大ロボットらしからぬ、目まぐるしい肉弾戦を繰り広げる2機。


 い灰色のロボットが、右腕を突き出す。

 動きを先読みして、黒いロボットの腕を捉えた。

 爆発しない。

『自爆装置はない。思いっきりやれ』

 ヨンノヤミは攻撃の手をゆるめない。ダブルエスは腕でりを受けた。

『周囲に、ほかの敵は確認できず』

『外部から、爆発物の有無は確認できないわ』

こぶしで語ってきて』

 三人のオペレーターには温度差があった。

重力制御じゅうりょくせいぎょで衝撃がすくなくても、殴るのは、いい気分じゃねえ」

安全装置あんぜんそうち解除かいじょ

「止まれ!」

 ライゾウが言わなくても、キヨカズは新機能を起動させていた。

 両腕の装甲そうこうが荒々しく形を変える。

 ヨンノヤミのパンチを、左手でつかむダブルエス。

「何?」

 黒いロボットの右腕が外れ、ダブルエスは体勢を崩した。

『くらえ!』

 前のめりになったダブルエスめがけ、膝蹴ひざげりを繰り出すヨンノヤミ。

 ひざから現れた短い光のやいばが、うなりを上げる。

「上等だ!」

 ダブルエスは、攻撃を受けた姿勢のまま相手を捕らえた。

 右手を黒い胸に押し当てる。

 ひびく高い音。コックピットをくりぬき、クロを地上に降ろすことに成功。

 ロボットの目から光が消える。

 四天王は、すべて撃破げきはした。


 十六夜島いざよいとうに、一応の平和が訪れた。

 前回仕掛けられたトラップは、すべて解除されている。

 解除したのは、ミドリとアオが操作する、グレータンデム改。

 トラップは爆発物ではなかった。動きを制限する、糸のようなもの。

 ブルータンデムがかかって、助け出されていた。

 それを、空から白い鳥が見下ろす。

「おとなしく見るよ」

「右に同じ」

 短髪のタカシと坊主頭のミツルは、しおらしくなっていた。

 ロボットが地下へと移動していく。


 エレベーターから足場ごと移動し、格納庫かくのうこに入るダブルエス。

 ライゾウとキヨカズが降りる。

「大活躍じゃないか。二人とも」

 ヘルメットをかぶった年配男性ねんぱいだんせいは、微笑んでいた。

「やっぱり?」

「甘やかしちゃ駄目だめですよ。コウシロウさん」

 すかさず、くぎすキヨカズ。ライゾウの興味は、すでに移っている。

「そういえば、戦ったのに、なんで壊れてないんだ? こいつ」

「私に聞かれても、な。博士も、よく分からないらしい」

 無傷の巨人は、静かにたたずんでいた。


 会議室。

「強い者と戦うために、アースへ入った」

 真面目に断言した、黒い服の二十代の男性。

 スミコはあきれてものも言えない。

「知っている情報を話せ」

「そうそう。昔のよしみでね」

駄目だめよ。こういう場合は、下手に出ないと」

 アカとミドリの上から目線を、アオが注意した。

「おれは、指示を受けて伝えていただけ。ボスのことは知らない」

「こっちから殴り込めると思ったのじゃが」

「戦うだけが能じゃないだろ。機械に強いし」

 ライゾウは、話の流れを無視して、クロの得意分野を褒めた。

「何かやってもらうから。うちで働きなさい」

 スミコは、有無を言わさず命令した。

 のちに、クロはエンジニアになる。


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