第10話日程8 復路 危険度☆

「ええっと、これで本日の日程もすべて終わりでーす」

 帰りのバスの中は、異様な盛り上がりをみせた。最新のカラオケ機が備え付けてあるというアンバランス仕様なオンボロバス。金の使いどころを完全に間違えている。

 あたりは闇に包まれているが、空に昇った月モドキ――赤、青、黄の三種類――のおかげで驚くほど明るい。頼りないヘッドライトではあるが、運転には何らの支障はないようだ。昼間より、運転技術は格段に向上している。さすがは夜行性の吸血鬼といったところか。


「――先生たち、何者なの? 急に子供になったりさ、イケメン騎士団長とも知り合いだったし」

 話せばながくなる。一言ではとても言い表せない。


「英傑よ、我を押しとどめよ」

 ポツリと暴舞が言った。

「なにそれ?」

「十年前、世界が裂けて、そこから一人の少女が現れた。それが全ての始まり」

「でも、それって確か一般人には知られていない情報だよね。先生たちに話しちゃいけないんじゃ――」

 やはりと言うべきかただのJKではなかったわけだ。


「鈍すぎだよ、ミ・コ・トちゃん。一般人がこんなツアーに参加するわけがない。私達だって学園長の指示で潜入調査にきたわけだしさ」

「えっ!? だって、これは『高校生全国闘技大会』優勝のご褒美だったはずで……あのエロオヤジ!」

「――それで調査の収穫はあったのか?」

「自分が井の中の蛙だってことは理解できた。竜狩りに手を出して、失敗するわ、一般兵にも後れをとるわで、己の弱さを痛感させられた」

 ガリガリと頭を掻きむしる暴舞。相当悔しかったらしい。


「幼竜をヌンチャクで相手どれるだけで、超人の域だとおもうけどな」

「旦那様の言うとおりじゃ。ドラグニアの竜騎士はみな一騎当千の強者なのだから恥じることなどないのじゃ」

「姐さんと呼ばせて下さい。これからご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

 暴舞が深々と頭を下げた。

「悪い気はせんのう。どうしたものかのう。旦那様はどう思う?」

 チョロ姫がニヤケ顔で同意を求めてくる。

 

 今回の一件で、色々と考えさせられることは多い。今回みたいな事件は、氷山の一角に過ぎない。俺の知らぬところで、すでに軋轢が生じているのかもしれない。俺は、特殊な事情を抱えているとはいえ一般人の域をでていない。今回だって、休日を利用してプライベートで参加している。この十年なるべく普通に、人並みの幸せを享受したいと考えて生きてきたわけだけど…………。

 

 十年前には、異世界旅行なんて空想の産物だった。超人JKなんて漫画や小説の中にしか存在しなかった。でも、今はそれが現実となって俺の前に現れた。その原因をつくったのは俺の願と姫の行動だ。

 

 変革していく世界をよりよい形にするために俺達にできること。それは……。

「あのさ、姫。明日、会社やめてくるよ」

「ほほぅ、英断じゃな。して、これから何をするつもりなのじゃ。無論何をするにしても反対はせんがな」

「異世界旅行会社を立ち上げようと思うんだ。とりあえずガイドと運転手の目星はついている。あとの人手は――」


「先生、もちろん私も雇ってくれるんでしょう。ミツキはどうする?」

「私は、姐さんに付いていくだけさ」

「決まりじゃな、旦那様。旅は道連れ世は情けなのじゃ」

 問題は山積みだ。不安だって数えきれないほどある。それよりも、高揚感が優るのは旅行ハイのせいだろうか。でも、不思議と怖くはない。旅の仲間は一期一会だなんて言うけれど、俺達に当てはまらなかったみたいだ。

「明日から、忙しくなるぞ。覚悟しとけよ」

 こうして俺達の異世界ツアーは延長戦に突入した。平穏な旅路であらんことを願うばかりだ。

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