第9話日程7 城下町(広場) 危険度★★★★★ その2

「――吸血鬼はあちらではヒーロー扱いでーす。エルフは他種族と結ばれても問題なしでーす」 

 種族間のしがらみなんて意味をなさない。俺達を連れてきたのは、交流のための第一歩。俺達が危険じゃないとわかれば民衆の意識も変革するかもしれないそう考えての行動だそうだ。

 

 色々と言いたいことはある。密国がばれた時点で、計画が破綻するのは明白だ。それこそが狙いだったと勘ぐることもできる。ここで俺達が処刑されれば否応にも繋がりができるわけだ。最悪武力衝突が起こり得る。


「先に、謝っておく。ごめんなさい」

 深々と頭を下げる。これは俺と姫が背負うべき罪……使命だ。

「この二人の身柄は俺たちが預からせてもらう。今のところ損害はでていないんだ。被害者である俺達に処遇を一任してもらいたい」

 不遜な子供を危険と判断したのだろう。兵士たちが武具を構え始める。

「先生、戦うってことでいいんだね」

 こちらは丸腰だ。片手剣、ハルバート、バスターソードなどなど。一貫性のない装備から修練度がにじみ出ている。みな手練れの兵士だ。


「ああっ、でも大丈夫だ。だって――」

 目の前の石畳がひび割れる。その亀裂の中心に立っているのは

「ショタバージョンの旦那様を真っ昼間から拝めるなぞ、眼福じゃわい」

 二十代にみえる黒髪の女性。サイズのあっていない白いワンピースが、すごく窮屈そうだ。見え隠れする太腿も含む全身に黒い線状の紋様がはしっている。


「姫、その手に持っているのは?」

 ローブを纏った男は、ピクリとも動かない。

「案ずる。殺してなどいないわ」

「ああっ!?」

 相武が素っ頓狂な声を上げる。

「その人だよ。私しにロープ貸してくれた人!」

 ということは、こいつが賊か。

「こやつは竜狩りの頭領じゃ。おかしいと思ってのう。竜があれだけ荒ぶるには相当な理由が必要じゃからな」

 暴舞のせいじゃなかったのか。これでやましいことはなくなった。


「聞いただろう。俺たちは潔白だ」

 おかしいな。誰一人武器を下ろさない。姫の登場に面食らってフリーズしていたみたいだけど、今にも飛び掛かってきそうな状態だ。

「潔白ではないじゃろう。なにせ、妾たちは密入国の身。ここドラグニアの竜騎士は忠誠心の塊のような連中じゃからな。はい、そうですかといって見逃してくれるわけがあるまい。――不安がる必要はないのじゃ。妾の強さは知っておろう」

 

 乱戦必至か。姫が負けるはずない。相武と暴舞にしても身を守ることくらいできるだろう。……でもその後はどうなる。魔界の住人として俺達は悪い印象持たれたまま。いや、想像に実像を与えてしまうのだから事態は悪化にほかならない。それにガイドと運転手は二度とこの地に足を踏み入れることはできないだろう。

「旦那様少し下がっておれ。この数じゃ、手加減はできぬ」

 姫が体勢を低く構える。


「――騒がしいな。一体何事だ」

 凛とした声が響いたと同時に、兵士たちは姿勢を正して、武器を下した。

 白銀の鎧を纏った人物が近づいてくる。黒髪に、整った顔立ち。年齢は二十そこそこか。ん? おかしな既視感。鎧を脱がせて、アロハシャツを装着。瓶底メガネをプラスにすれば……。

 あちらもこちらに気づいたようだ。苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「オランド様?」

 兵士の一人が目ざとく異変を察知したようだ。それにしても、『職場がブラック過ぎて大変なんすよ』なんて言っていたからもっと過酷な労働現場を想像していたんだけどな。

「なんじゃ、オランド。ドラグニアの騎士団長をやっておるのか。インドア派のお前が一体どうしたのじゃ」

 オランド――義弟が目を逸らした。オランドにも立場がある。ここは上手く立ち回らなければ。


「兄ちゃん」

 あどけない表情を張り付かせて、オランドの元に向かう。

「――怖かったよ」

「どんな状況なんすかこれ?」

 小声でオランドが話しかけてくる。かいつまんで事情を説明する。

「――この者たちは私の客人だ」

 その一言で事態は一変した。容疑者から観光客に一気にグレードアップだ。ガイドと運転手の処刑も中止になった。どうやらドラグニア王国上層部は、魔界もとい俺達の世界との外交を画策していたらしい。上手く行き過ぎている気もするが……。どんな思惑があるにせよあれこれ考えてもしかたがない。

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