第7話日程6 城下町(護送馬車) 危険度★★★★

「緊急事態だ」

「What?」

「だからさ、俺達はやらかしたんだよ。あそこで喰われるのが正解だったんだよ!」

「コワッ。急に大声ださないでよ。周りの視線が刺さってくるから」

「今更だな、こんな目立つ三人組が人目を引かないはずがない」

 隠れるのは無理だ。安全地帯なんてわからない。バスまで逃げれば、姫がいる。姫と合流できればなんとかなるはずだ。たぶん。


「オラ、ワクワクすんぞ」

「はあっ!?」

 前方から、甲冑を身に着けた兵士が近づいてくる。路地裏に逃げ込むか……周囲に気を配れば何てことはない。四面楚歌状態。どこにも逃げ場はない。

「どうする、先生?」

 暴舞も相武も俺よりも強い。俺さえ足を引っ張らなければ……。駄目だ。ここは異世界なんだ。法律がどうなっているかなんてわからない。抵抗=即処刑ってパターンもあるかもしれない。


「大人しく投降しよう」

「でも、私達は何も悪いことしていないのに」

 世界規模の文化の隔たりがあるのだから、利益を侵害しても許されるなんて暴論が通用するはずがない。今まで、問題が表面化していなかったのは限られた場所で外交上の駆け引きの手段に利用されていただけに過ぎない。どんどん裾野が広がって、個人同士が交流することになれば問題は噴出するだろう。今回のツアーは、そのモデルケースになるかもしれない。教科書に載るかもしれないな。まあ、それは生きて帰れたらの話ではあるけれど……。死人に意思を伝えるすべはない。


 暴舞が両手を挙げる。相武もそれに続く。この状況で俺ができることは一つしかない。

「俺は、悪くない。騙されたんだ!」

 相武を突き倒して全速力で、駆ける。行く手を長槍が防いだ。急反転して、逃れようともがくと兵士の群れが、迫ってきた。

 タックルをかまされて盛大に地面を転がる。土の匂いが鼻につく、じゃりじゃりとした食感と鉄分の味のコラボレーション。地面に押し付けられて呼吸が苦しくなる。


「何故逃げた――。お前は余所者か――。お前が竜狩りの犯人だろう。何だこれは――」

 俺の肩から強引にロープを引きはがす。ブチッ。

「おい、お前これ……。おい、こいつ白竜の髭を持っていやがるぞ!」

「どうするここで殺すか?」

 キル? 

「こいつには白竜の髭――王家の宝を壊した罪も被ってもらわないといけない」

 無理やりに、切れたロープを握らされた。沈黙が場を支配する。叫ぶなら今しかない。

「おい、クソJK、俺様を助けやがれ! 全部、お前らのせいだからな。さっさと助けやがれ!!」

 頭を踏みつけられた。口いっぱいに血の味が広がる。これでいい、これでいいんだ。頼む相武、暴舞。お前たちの行動で未来が決定する。

「先生! なんで止めるの――」

 相武の叫び声。重い一撃で脳が揺れた。




 ガタガタと揺れている。目を開けるのが少し怖い。上手く起き上がれない。脚の腱でも切られたか。それても足自体……。

「先生!」

 相武の声が聞こえる。

「少し待ってね。ほら、ミツキも手伝って」

「意味なし。そいつは戦力にはならない」

 ジャラジャラと金属がぶつかりあう音がする。手首、足首に痛みを感じる。

 暴舞は怒っているんだ。表面だけみたら俺は相当なクソ野郎に違いない。


「――これで大丈夫」

 相武に支えられてゆっくりと上半身を起こす。

「厳重だな」

 金属製の手枷、足枷のセット。足のほうには御大層な鉄球が付属している。こんなことをしなくて逃げられはしないのに……。

「相武と暴舞は――。よかった、拘束されていなくて」

「余計なお世話。私達はそんなに弱くない」

「ミツキ、そんな言い方ないでしょう。あの数相手では全員で逃げ切るのはむりだった。誰か犠牲にして生き残ったって意味ないでしょう」

「勝てなくても、負けはしなかった」

「上には上がいるんだよ。正直、一対多数の状況では勝ち目は零だった」

「…………」

 JK同士の言い争いにしては、内容が血なまぐさいというかなんというか……。何はとも二人が無事で良かった。やっと、現状把握に移行できる。縦長の四畳程のスペースには俺達しかいない。後部には、嵌め殺しの鉄格子。


「どこに向かっているだろうな」

「処刑場」

「え?」

「あのロープ、王族の家宝だったらしくて……」

 相武が項垂れて口ごもる。

「逃げきるんだから問題ない」

「でも!」

「言い争いは止めるんだ。逃げられなくても即処刑になんてならない」

 そのためにあんな立ち回りをしたんだ。俺が、主犯だってしっかりと刷り込めたはずだ。


「先生はどうなるの?」

「大丈夫、とっておきの作戦がある。二人にも協力してもらうぞ」

 左手首に意識を集中させる。後で姫に謝らないとな。

一瞬で、ことはなった。相武が目を見開いている。暴舞ですら怪訝そうな表情をしている。あとは、口裏を合わせるだけだ。恥ずかしがってはいられない。なにせ命がかかっているのだから。

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