第8話日程7 城下町(広場) 危険度★★★★★ その1
「降りろ」
扉が開いて、長身の兵士が声を張り上げた。腕周りなんて俺の二倍はありそうだ。
「怖いよ」
震える声で言う。
「大丈夫だから」
相武が俺を抱き寄せた。
「そのガキはなんだ」
「身代わり」
「あの男はどこに行った」
「逃げた。あの男。悪魔。私達、利用された」
だいぶ片言だけど。翻訳機のせいなのか、暴舞の演技が下手なのかわからない。
「僕たちどうなるの、このオジサンに殺されちゃうの」
「大丈夫だよ。私――お姉ちゃんが守ってあげるから」
博打ではある。心情に訴えかける作戦なわけだが、女子供でも問答無用で裁かれるってお国柄ではあまり意味をなさない。
「とりあえず降りろ、お前たちの行く末は騎士団長様が決める――。わかった、わかった。俺もできるだけ協力してやる。主犯は逃げた男で、お前たちは脅迫されていたそう報告する」
第一段階成功。あとは待つだけだ。上手くいきすぎて顔がにやけてしまいそうだ。それにしても、相武は着やせするタイプなんだな。Dはかたいだろう。
「ほら降りろ」
涙を浮かべながら、怯えた様子で、相武にしがみついたまま、馬車から降りる。
「上手くいったね、先生」
相武が小声で話しかけてくる。気持ちにゆとりがでてきたのだろう。俺も気づかれないようにあたりの様子を窺う。石畳、それから無数の人の声。下半身しか見えないけど老若男女問わずに集まっているみたいだ。歩を進めていく内に、話声は消えて、金属音が聞こえだす。
「先生……どうしよう」
そろそろ顔を上げて相武から離れても大丈夫だろう。
「うっ、嘘だろう」
円形の広場。その中央で跪いている女。尖った耳、金色の髪のエルフだ。首の前で長槍がクロスしている。その傍らでは上半身裸の男が、必死に痛みに耐えている。赤い短髪に、サングラス。時口元から覗く犬歯は鋭くて、人間のそれではない。沸騰したやかんのように湯気を発している。肉の焦げる匂い鼻につく。
相武が表情を硬くしている。暴舞は、目を細めて周りの様子を窺っている。
どうする、この状況。無関係を装わなければ俺達の身も危うい。けれど、主犯は俺ということで押し切れば助けられるか。
「あのう……」
相武の声が響く。
「その人たちは関係ない。竜と戦ったのは私達だもん」
舌打ちしかかったけど、相武は間違っていない。他者を助けることは人間として正しい在り方だ。
「お嬢さーん。何をいっているんでーすか。私は自分の想いに従って行動しただけでーすう」
「喋るな!」
槍の柄で、頬を叩かれるガイド。血が口元を伝っている。
「種族なんて関係なしでーす。オタク文化最高――」
地面に組み敷かれるガイド。運転手が満身創痍な身体を引きずりながら懸命に手を伸ばす。
「こいつらの罪状は?」
子供らしからぬ口調。演技も打ち止めだ。
「何だお前は?」
槍の矛先がこちらに向けられる。偽物じゃない本物の刃物。身がすくむそれでも、立ち止まれない。
「理由を教えろ」
低く唸る。
「先生!?」
「……扉を開こうとしたのだ。魔界への扉が開かれれば大勢が死ぬ」
魔界か。自分たちの世界がそう呼ばれるなんて心外だ。誰だって得体のしれないものには恐怖を覚えるものだ。異世界にだって色々な考えを持っている人がいて……種族だって多種多様で……。今後、何一つ悲劇がおこらないなんて言いきれない。でも、俺達はお互いを知ってしまった。だから、もう元には戻れない。
「俺達を利用したのか?」
「…………」
あんな状況では、喋れないだろう。
「離してやれ」
有無も言わせぬ高圧的な態度。張子の虎ではあるけれど、効果は抜群のようだ。
「――否定はしないでーす」
ガイドは、ぽつぽつと思惑を吐露し始める。処刑が覆らない、そう思っての行動だろう。周りにいるのは兵士しかいないけれど、ほんの一欠けらでも心に刺されば未来は変わるそう考えているのかもしれない。
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